第242話 燻製とオリーブオイル漬


「ユウスケお兄ちゃん、今日はお客さんがいっぱい来てくれているニャ」


「そうだね。やっぱり1週間店を休むと、先週の分の分お客さんも来てくれるから普通より忙しいな」


 アルエちゃんの言う通り、予想はしていたが先週休んでいだ分、今日はお客さんが多い。とはいえ、とてもありがたいことではあるがな。


 俺を含め、従業員のみんなも1週間のんびりと休んで過ごしていたこともあって、いつもよりも生き生きと働いているように見える。やはりたまには長めの休暇を取ってリフレッシュすることは大事だ。


「ユウスケさん、サンドラさんがいらっしゃいました。少しユウスケさんとお話したいそうですよ」


「サンドラ? いつもは週末に来るのに珍しいな。分かったよ、サリア、ちょっと行ってくる」


 いつもはキャンプ場が休みとなる前日に来ているのにな。サンドラが週の初めに来るなんて初めてのことだ。




「サンドラ、いらっしゃい。週の始めに来るなんて珍しいな」


「久しぶりじゃな、ユウスケ! ええ~と、あれじゃ、今日は時間が余ったからな。ちょうど出掛けた帰り道に寄ってみただけなのじゃ!」


「……そうか、わざわざありがとうな」


 ものすごく言い訳っぽいな。ただ単に週末まで待てなかっただけのような気もするが、さすがにそんなことを指摘するほど野暮でもない。むしろ週末が待てずにわざわざキャンプ場にまで来てくれたのならありがたいことだ。


「とはいえ、今日は週がまだ始まったばかりだから、いつものお土産は渡せないし、あんまり量は出せないぞ」


「うむ、構わんぞ。少しでも腹が満たせるのならそれで良い。どちらにせよ、飲める酒は5本までじゃろ?」


「そうだな、お酒はどちらにしろ5本までだ。まあまた週末に来てくれれば、いつものように余った食材でいろいろと作ってやるからな」


「おおっ、それは助かるのじゃ!」


「それにちょうど良かった。先週は海の街に行ってきて、いろんな海の食材を買ってきたんだ。普段のキャンプ場じゃ出していない料理もいくつかあるから、ぜひ試してみてくれ」


 どちらにせよ、ヴィオの街で購入してきた食材はサンドラのために少し残しておく予定だった。サンドラには以前クラーケンをおすそ分けしてもらったから、そのお礼はしっかりとしないといけない。


「そういえば海の街に行くと言っておったな。それは楽しみじゃな、ぜひそれを食べさせてほしいのじゃ!」


「ああ了解だ。それじゃあ、普段出していない食材を使った料理を一種類ずつ出すか。それくらいだったら他のお客さんの分は十分に残るからな」


「うむ、頼むのじゃ!」




「ぷはあ! この貝は本当に酒によく合うのじゃ! まったく、たったのひとつでは物足りないのじゃ!」


「リッキム貝のほうは1人ひとつまでだからな。でも酒に合うならこっちの小魚を燻製にして軽く炙ったやつもうまいぞ」


「むむっ、魚に燻製の香りが加わるとこんな味になるのじゃな。確かにこれは酒が止まらなくなってしまうのじゃ!」


「あとはこっちの干物を焼いたやつなんかもうまいぞ。さすが海の街だけあって、新鮮で脂が乗った魚を使った干物も多かったな。脂が乗って十分にうまいから、醤油はちょっとでも大丈夫だ」


 先ほどゴートさんたちにも出していたシシャモくらいの大きさの小魚を燻製にして軽く炙ったものだ。もちろんそのまま炙るだけでも十分にうまいのだが、燻製という手間を加えることにより、スモーキーな香りが加わり、よりお酒と合うようになるのだ。


 ヴィオの街で手に入った干物はそこまでカチカチに乾燥していないので、軽く火へかけることによって、ジュウジュウとおいしそうな脂が溢れてくる。


「う~む、確かにこいつもうまい。生で食べる魚もうまいのじゃが、こうして干した魚も悪くないのじゃ! こっちの料理は麺に貝を乗せたものか。ふむ、それにしても本当に良い香りじゃな」


「これは燻製にした貝をオリーブオイルに漬けたものだよ。それをオリーブオイルと一緒にパスタという麺料理に乗せた料理だな」


 牡蠣のような貝を燻製にして、それをオリーブオイルに漬けた物だ。オリーブオイルに漬けると空気中の雑菌に触れなくなるので通常よりも保存が効くようになり、さらにオリーブオイルの方にも貝の旨みと燻製の香りが移る。


 それを茹でたパスタにオリーブオイルごと絡ませると、シンプルだが濃厚な燻製した貝の味が味わえるパスタの完成だ。


 燻製した貝のオリーブオイル漬けはいろいろと料理に応用が利く。ちょっとした料理でもこれを乗せることによって、豪華な料理へと早変わりだ。サンドラも満足そうに海鮮料理を食べてくれていた。

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