第240話 焼き貝と干物
「むほほっ、こいつはなかなかいけるな!」
「うむ、貝を焼いて醤油をかけただけでこんなにうまいとは思わんかったわい! 確かに街では新鮮な貝はあまり運ばれてこんから珍しいのう!」
ダルガとアーロさんが焦げた醤油の香りがするリッキム貝をとてもおいしそうに食べる。
いつもの街で新鮮な魚介類はなかなか手に入り難い。エルフ村の人たちに収納魔法を使える人は大勢いるが、荷物を運ぶために収納魔法を使える人はそれほどいないからだ。
「ぷはあっ! こいつは最高にビールと合うっすね! ユウスケさん、これをおかわりってできますか?」
「ああ、ごめん。これはできるだけ大勢のキャンプ場に来てくれた人たち用の特別料理だから、おかわりはナシなんだ」
「残念っす……」
ソニアも収納魔法を使えるが、そこまで容量があるわけではない。本当はもっとたくさん仕入れたいところだったが、1人1枚で限界だった。それに加えて、昨日や一昨日の俺たちのご飯分もあったりしたからな。
「う~む、それは残念じゃな。まあ今は久しぶりにこの酒を味わえただけで良しとしよう。ユウスケ殿、儂は日本酒を頼むぞ!」
「ユウスケ、儂はウォッカを頼む!」
「儂はウイスキーじゃ!」
「ああ、了解だ」
すぐにビールを1本飲み干し、各々が好きな酒を注文し始める大親方たち。
……というか、そんなペースで酒を飲んで、夜までもつかは怪しいところだがな。
「お久しぶりです、ユウスケさん」
「久しぶりだな、お邪魔するぜ!」
「ゴートさん、モーガイさん、お久しぶりです」
ソニアの元パーティメンバーである深淵の影のみなさんが来てくれた。今週の営業が始まってからまだ30分くらいしか経っていない。
ゴートさんたちがこの時間帯にキャンプ場へ来るのはとても珍しいな。いつもは冒険者の依頼を終えて、夕方前に来て一泊することが多いのに。
「いやあ、実は先週キャンプ場に来たんだが、営業していなくてがっかりしちまってな。今日は依頼を受けずにここでのんびりと過ごすことにしたぜ」
「ああ、それはごめん。先週はちょっとキャンプ場の営業を休んで、従業員と一緒にヴィオの街に行ってたんだ」
どうやらキャンプ場の営業を休んでいた間に来てくれていたらしい。キャンプ場に来る手前の道には今週キャンプ場の営業を休むと告知していたのだが、そこまで来てくれたようだ。
一応営業を休む2週間くらい前から先週は休むということは告知していたのだが、その期間にキャンプ場へ来ていない人はキャンプ場が休みであることを知りようがないもんな。
「わざわざ足を運んでくれたのに申し訳ない。今日はリッキム貝をひとつサービスしているのと、海の近くにあるヴィオの街で仕入れてきた魚の干物や燻製なんかもあるから、ぜひ楽しんでいってくれ」
「おお、そりゃラッキーだな!」
「ああ、楽しみにしてるよ!」
モーガイさんとゴートさんも楽しみにしてくれているようだ。先週足を運んでくれた分も楽しんでもらうとしよう。
「ユウスケさん、あとでソニアを呼んでね!」
「了解したよ、シャロアさん」
ソニアの元パーティメンバーだけあって、シャロアさんはソニアと仲がいい。料理や飲み物を持っていくときにはソニアにお願いするとしよう。
「あ、あの、ユウスケさん。やっぱりケーキは食べられないでしょうか?」
「ああ。悪いんだけれど、ケーキは特別な時にしか出さないからな」
ソニアの代わりにパーティへ入ったリッカさんはケーキをご所望のようだが、残念ながらケーキは特別な時にしか出さない。シャロアさんとリッカさんは本当に甘いお菓子が好きみたいだから、ちょっとだけ申し訳ない。
「い、いえ! この間いただきました焼きフルーツやフルーツサンドもとっても美味しかったです!」
「それはよかった。最近マシュマロってデザートも新しく追加したから、もしよかったら試してみてね。ケーキほどではないけれど、これもとても甘いお菓子だから、きっと気に入ると思うよ」
「は、はい! 楽しみです」
「むむ、新しいデザート、これは絶対頼まなくちゃね!」
最近はデザートにマシュマロを追加した。マシュマロはストアで購入したものを串と一緒に提供するだけなので、料理の手間とかはないのもありがたい。やはりキャンプの時に食べる焼きマシュマロは絶品のスイーツなのである。
キャンプ場の女性従業員の評価は好評だったので、同じくらいの年齢のこの二人もきっと気に入ってくれるだろう。
「それでは中へどうぞ」
「ぶはあああ! 久々にここのビールを飲んだが、やっぱりうめえな! それに特別料理のリッキム貝も本当にうめえぜ!」
「うん、こっちの魚もとても脂が乗っていておいしいよ! それにこの白い野菜を細かくしたものと醤油が本当によく合うね!」
モーガイさんとゴートさんは特別料理と干物を食べながら楽しんでいるようだ。干物の方は大根おろしと醤油を添えてある。
干物も新鮮な魚を干してすぐのものは脂がたっぷりのっていてまだ身が柔らかくてとてもうまい。ここまでおいしそうに食べてくれるなら、ヴィオの街でお客さんのためにいろいろと仕入れてきた甲斐がある。
「こうやって、全体に焦げ目が付くくらいに焼いたら食べごろです。焦げないようにじっくりと焼いて、中までしっかりと火を通すのがポイントです」
「あっ、一気に燃え上っちゃった! 簡単そうに見えてなかなか難しいわね……」
「でも、うまく焼けたら甘くて本当においしいです!」
ソニアがシャロアさんとリッカさんに焼きマシュマロの作り方を教えている。
焼きマシュマロのベストな火加減は意外に難しかったりするよね。
それにしてもみんなおいしそうに酒や食事やデザートを楽しんでくれている様子だ。先週キャンプ場が休みだったこともあるし、ぜひ楽しんでもらいたいところである。
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