第234話 スイカ割りと花火


「イド、もう少し右側ですよ」


「イドお姉ちゃん、今度は少し左だニャ!」


「イドさん、そこです!」


 ソニア、アルエちゃん、サリアのそれぞれ3人が目隠しをして何も見えていないイドに指示を飛ばしていく。


「………………えいっ!」


 ザッ


 残念ながら、イドが勢いよく振り下ろした木刀は大きなスイカのような異世界産の果物の右側にそれてしまった。


「ああ~駄目だったみたい……」


「おしかったニャ!」


「もうちょっと左側でしたね!」


「今度は私にやらせてください。一刀で両断してあげましょう!」


「いや、ソニアがやったら1回で終わっちゃうからな。次はサリアの番だぞ」


 さすがにソニアがやったらすぐに終わってしまうだろうから、それを止める。


 そう、俺たちは今、海の砂浜で定番のスイカ割りをしている。いや、正確に言うと割る果物はスイカではなく、異世界産の青色の果物を使用しているからスイカ割りではないんだけどね。


「なるほど、目隠しをした状態で周りの声を頼りにあの果物を割るという遊びなのだな」


「なかなか面白い遊びです。確かにソニアさんが挑戦したら、1回で終わってしまいそうですね」


「ブルル♪」


 ウドとアルジャ、アリエス、俺は海鮮料理をつまみながら酒を飲んで観戦モードだ。スイカ割り組はみんな楽しそうにはしゃいでいる。ちなみにアリエスも今日は少しお酒を飲んでいるから、いつもよりご機嫌である。


 昼間は海で泳いでいた人もいたが、夜は俺たち以外誰もこの砂浜には泊まらないみたいだ。これなら多少騒いでも問題ないだろう。


 キャンプ場でもたまに外の星空の下で晩ご飯を食べて酒を飲んで楽しむが、やはり場所が変わると楽しいものだ。海のさざ波の音が聞こえる海の夜の砂浜で、みんなが楽しんでいる姿を見ながら酒を飲むのも乙なものである。




 スイカ割が終わったあと、その青色の果物は文字通りスタッフでおいしくいただきました。


 結局アルエちゃんが一度木刀で見事に果物をとらえたのだが、残念ながら力が足りずに少し傷がつくという結果に終わる。2周回って綺麗に割ることができなかったので、ソニアに任せたところ、見事に1発で割った。


 ……しかも切り口が木刀で斬ったものとは思えないほど綺麗なものだったからさすがである。一応綺麗に割れなかった時用に、ヴィオの街の市場で余分にこの青色の果物を買っていたが、それも不要だったようだ。


 青い果物の中身は綺麗なオレンジ色をしており、ミカンとバナナを合わせたような不思議な味をしていたが、割る前にサリアの氷魔法でしっかりと冷やしていたのでとてもおいしかった。そしてスイカ割りを十分に楽しんだあとは……


「おお、これは何とも美しいですね!」


「とってもとっても綺麗だニャ!」


「次はこっちのやつにも火をつけましょう!」


「火傷をするから他の人には絶対に向けちゃだめだぞ。あとゴミはそこらへんに捨てないようにな」


 パチパチパチ


 色とりどりの美しい火花が次々と散っていく。日本の夏の夜の伝統的文化である花火である。


 さすがにねずみ花火やらロケット花火やらはなかったが、俺のストアの能力には手持ち花火と線香花火を購入することができた。……線香花火が入っているとは、さすが神様、わかっているな。俺も花火の中では地味だけれど、線香花火が好きだったりする。


「ブルル……」


 アリエスは花火をちょっと怖がっているようで、向こうの方には近づかない。まあ、初めて見る花火って少し怖いもんな……


「これはどういう仕組みなんだ?」


「う~んと……確か炎にいろんな金属を入れると火の色が変わるのを利用しているんだっけな」


 そんなことを過去に聞いたようなこと気がする。


 それにしても花火をするのなんてとても久しぶりだな。……さすがにソロキャンプで花火をすることなんてなかった。これだけ人が大勢いると花火も楽しいものである。


「凄い綺麗ですね! 火魔法の炎の色とは全然違う色です」


「サリアの火魔法だと火の色とかは変えられたりしないのか?」


「私は無理なんですけれど、村長みたいに火魔法を極めていくと自然と色が変わるって聞いたことがありますよ」


 そういえば元の世界でも火の色は温度によって自然と変わっていくんだったっけか。まあ、この魔法の世界では化学的反応がどうなっているのか知らないけれど。


 そんな感じでみんなと一緒に夜の花火を楽しんだ。


 意外と地味な線香花火も人気があったな。もちろん花火の後片付けは入念に行った。こんなに綺麗な海と自然を汚すなんてもってのほかだからな。楽しんだ後は来た時よりも美しくが正しいキャンパーのモットーである!






 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「楽しい休みももう終わりかあ……」


「名残惜しいですね……あとひと月くらいはのんびりしていきたいところです」


 ソニアは相変わらずだが、確かにその気持ちは分からなくもない。基本的には俺ものんびりとした生活や旅行が好きだからな。


 昨日は海の浜辺でみんな一緒に楽しんだが、今日で休みは終わりだ。テントやタープを撤収してもう一度ヴィオの街の市場に寄って、お土産をいろいろと買ってから来た時と同じようにアリエスの馬車に揺られながら帰路を進んでいる。


 短い期間だったが、本当に楽しかったな。頑張って働いて、みんなでまたどこかに旅行に行くとしよう。

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