第230話 海辺のキャンプ


「おお、これは綺麗な海と砂浜だ!」


 ヴィオの街へやってきてから3日目、朝食を宿で食べてから2日間泊まっていた宿を出た。そしてヴィオの街から少し離れた砂浜へとやってきている。


 ヴィオの街周辺にはいくつかの広々とした砂浜が広がっている。この辺りは特に野営が禁止されているわけではないので、俺達の他にもちらほらと昨日から泊まっていたと思われるテントがあった。


 今日はこの砂浜でのんびりとみんなでキャンプをする。食材については昨日街でたくさん購入してあるし、ウドやアルジャ達がたくさんの魚を釣ってくれたのでお腹いっぱい食べてもなお余るだろう。


「ユウスケ、こっちのタープはこんな感じでいいのか?」


「どれどれ……ああ、これくらいしっかりと張っておけば大丈夫だよ。これでテントとタープはオッケーだな。あとは椅子とテーブルを並べておこう」


 これでテントとタープの設置はオッケーだ。


 砂浜にテントやタープを張る際にはいつも使用しているペグではなく、サンドペグあるいは砂地ペグというペグを地面に打っていく。これは砂地や雪の中など、柔らかい地面にテントやタープを設置するときに役に立つキャンプギアだ。


 普通のペグよりも長くて返しがついており、表面積が広くなっていて抜けにくくなっているのが特徴的だな。砂浜は海からの風がとても強いので、ペグの上に重しを置いてしっかりと固定するのもポイントだぞ。


 また、潮の満ち引きがあるから海からはできるだけ遠くにテントやタープを張らなければならない。他にも海に魔物がいるらしいので、注意して遊ぶことが大事だという、この世界独特の注意点なども市場のおっちゃんに教えてもらった。


「これは綺麗な海ですね!」


「うわあ~海ってこんなに青くて大きいんですね!」


「すごい、とっても綺麗です!」


「今日はいっぱい遊ぶニャ!」


 女性陣が着替え終わってテントから出てきたようだ。


 そう! 暑い日の海といえば海水浴! 海水浴といえば女性陣の水着! 今日はサービス回だぜヒャッハー!


 ……なんて思っていた時期が俺にもありましたよ。


 この世界には水着なんてものは存在せず、女性は水に濡れても透けないような厚手のシャツと下はショートパンツが泳ぐ時の普通の格好らしい……


 いや、俺も海の近くに行くことが決まった日から、何もしなかったわけではない! 俺にだけ許された漫画という資料を使って、俺の故郷で海はみんなこういう格好で泳ぐんだよと遠回しにみんなへ伝えてきたのだが、残念ながら受け入れられなかったようだ。


 確かに可愛らしい水着だとも言っていたのだが、露出が多くて下着のようだと言われてしまっては反撃することができなかった……


 よく考えてみると、元の世界で女性用の水着を広めた人は、神として褒めたたえられてもおかしくない偉業を達したと言っても過言ではない気がする……


「ユウスケさん、何かお手伝いしましょうか?」


「僕も何か手伝いますよ」


「ああ、あとは俺達でやっておくから先に遊んでて大丈夫よ」


 ……うん、元の世界での水着ではないが、これはこれで良きものである!


 サリアは海で水に濡れても大丈夫なように、その長くて美しい金色のロングヘアを束ねている。いつも見慣れているロングヘアからポニーテールに変えるだけでもだいぶイメージが変わるんだよね。


 それに厚手のシャツといっても、サリアのその大きな胸がいつも以上に強調されていて、少しだけ目のやり場に困ってしまう。いつものメイド服や普段着もいいが、こうやって海で見慣れない服を着ている姿を見るのはとても新鮮である。


 イドもキャンプ場へ来た時に髪を切ってショートカットにしていたが、今は少し伸ばしてセミロングにしているようだ。その髪をサリアやソニアと同じようにポニーテールにしている。


 その青い肌も今ではまったく気にならないし、みんなもまったく気にしていない。この世界ではそろそろ立派なひとりの女性として見られてもおかしくない年頃になるから、兄であるウドもこれから忙しくなりそうだ。


 まあ、イドの場合は出会ったばかりの線が細くて病弱だった頃の面影がまだ頭に残っているから、よくぞここまで元気になってくれたという、親かウドのような兄目線で見てしまうんだよな。今ではみんなと旅行をしたり、海に入れるくらい元気になってくれて嬉しい限りである。


「海には魔物が現れるようですから、決してひとりで海に入っては駄目ですよ。何かあったらすぐに声を上げてくださいね」


「はいニャ!」


 ソニアも基本的にはいつもショートパンツなのだが、多少服装が変わるだけでいつもと雰囲気がガラッと変わって見えるな。海に入る気はあまりないのか、早速いくつか張ったタープに出しておいたリクライニングチェアを設置している。……相変わらずマイペースなやつだ。


 アルエちゃんも海を前にして、とても楽しそうにはしゃいでいる。その証拠に普段よりもその縞々の尻尾がブンブンと揺れている。アルエちゃんは緊張すると尻尾がピンっと張って、嬉しい時や楽しい時は尻尾をブンブンと振るから分かりやすいのである。


 ちなみに男性陣は俺がストアで購入したトランクス型の水着である。男が着るものなんてなんでもよいのだ。


 さあ、異世界の海を満喫しようではないか!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る