第226話 ヴィオの街


 ヴィオの街の門にいる衛兵さんへ盗賊達を引き渡す。以前キャンプ場を襲撃してきた盗賊には懸賞金がかけられていたが、今回の盗賊達に懸賞金はかけられていなかった。


 盗賊達はこのあと尋問され、他に仲間がいないかや盗品を隠し持っているアジトなどがないかを聞き出したあとに強制労働施設送りとなるらしい。この文明レベルの強制労働施設と聞くとヤバい予感しかしないが、完全に自業自得である。


 事情を説明して街の中に入るころにはもう日が暮れそうになっていた。


「おお~少し離れただけでいつもの街の様子とは全然違うんだな。それに人はこの街のほうが多いかもしれないね」


 街の中に入るとすぐに多くの建物が立ち並んでいたが、その多くの建物は木材でできており、その表面には灰色のペンキのようなもので塗り固められていた。


「このあたりは海の潮風に強い素材を使った建物が多いので、建物の様式などが少し異なると以前この街に来た時に人から聞きました」


「前に来た時よりも人がいっぱいいる気がするニャ!」


「なるほど」


 アルジャとアルエちゃんは以前にこの街へ来たことがあると言っていた。


 なるほど、いつも行っている街の建物と違うのはそういう理由か。確かコンクリートとかも潮風にさらされるともろくなりやすいと聞いたことがあった気がする。この灰色のペンキのようなものがそれを防いでいるのかもしれない。


「さて、お腹も空いたところだけれど、とりあえず先に宿を確保しようか。さすがに今日はテントを張って野宿するのはごめんだからな」


「ああ、わかった」


「分かりました」


 予定よりも遅くなってしまったため、だいぶお腹も空いているが、食事よりも先にまずは宿の確保である。某テレビ番組でもあったが、知らない土地で宿を確保し損ねると本当に大変なのだ。


 この街の門のところで衛兵の人から聞いた宿が多く集まっている場所へと移動する。


「それじゃあ宿を探そう。アリエスも泊まれる場所があって、4人部屋を2つか3人部屋を3つ借りられる宿だな」


「ええ」


「了解です」


 条件としては合計7人とアウルクが泊まれる宿になる。アウルクのアリエスには申し訳ないが、宿の中に入れてもらうことはできないので、少し大きな馬小屋がある宿を探す予定だ。




「ふう~思ったよりも宿がすんなりと決まって良かったな」


「ヴィオの街には多くの人が訪れる分、宿の数もとても多いですからね。基本的に宿がなくなるようなことはないですよ。それにしてもなかなかいい宿ですね」


「ああ。こんな立派な宿に泊まるのは初めてだ」


 ヴィオの街の宿はエリアによって値段が分かれているらしく、今回はせっかくの初めての社員旅行ということもあって、少し良さげな宿にやってきた。4人部屋を2つ借りて、こちらの部屋には男性陣の俺とウドとアルジャ、女性陣は隣の4人部屋に分かれている。


 良い宿だけあって、馬小屋もなかなか綺麗で大きかったし、アリエス用のクッションも置かせてもらったから、キャンプ場と同じくらい快適に眠れるだろう。


 この部屋も4人部屋と言う割にはだいぶ広く、さらに男性陣は3人なので余計に広々としている。俺がこの世界へ来た時に泊まった安宿とは全然レベルが違っていた。なるほど、管理棟の屋上にある自分の部屋もいいが、たまにはこういった高級な宿に泊まるのもいいものだ。


「俺もこんなに良い宿に泊まるのは初めてだよ。いつも泊まる時は安宿ばかりだったからな」


 俺も元の世界ではいろいろな場所へ旅行に出かけていたが、泊まる宿は基本的に安宿ばかりだった。基本的にはキャンプ場を作るためにお金を貯めていたから、旅行に行くとしてもあまりお金を使わずにいた。


 今はキャンプ場の経営も順調だし、イノシシ型の変異種を討伐したことによる臨時収入もあったからたまには奮発するとしようじゃないか。


「さて、一息ついたことだし、みんなで下に降りて晩ご飯を食べにいこう」


 今日はもう遅いので、ヴィオの街で有名な市場はもうすでに閉まっている。今日の晩ご飯はこの宿で食べて、この街を本格的に回るのは明日だな。




「うん、とってもおいしいです!」


「おいしいニャ!」


 イドもアルエちゃんも取り分けられた大きな魚の身をおいしそうに食べている。さすがに海の街の高級な宿ということもあって、テーブルに出された様々な料理は新鮮で脂の乗ったおいしい魚が使われていた。


 キャンプ場には川があるので、たまに休みの日に魚を釣って食べてはいるが、やはり川魚と海の魚はだいぶ違うようだ。


「やっぱり普通の川魚とは一味違うね。こっちの大きな魚も脂が乗っていて本当においしいよ」


 こっちの大きな魚は軽くソテーして野菜と白ワインと一緒に蒸したアクアパッツァみたいな料理だ。丸々一匹を使っているのでなかなか豪快な料理だ。


「お魚だけじゃなくて貝や海老もおいしいですね!」


「……そうだな。でもこっちの料理には醤油をかけたくなっちゃうよ」


 サリアが食べているのは貝や海老を焼いて塩を振ったものだ。確かに塩でもおいしいのだが、これらには醤油のほうが合うと思うのは俺が日本人の血というものだろう。


 やはり日本人としては海鮮には醤油なのである!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る