第225話 盗賊達の処遇


「うう……痛え……」


「なんなんだよ、くそったれ……」


 終わってみれば圧倒的だった。そこにはボロボロになった盗賊達の姿がある。風魔法のこぶし大の礫によって手足が変な方向に曲がっていたり、頭に受けて気絶している者もいる。


 一応ここから見る限りは全員生きていそうだが、魔道具の威力が弱でも当たり所が悪ければ死んでしまってもおかしくないな。威力を中に上げたりしたらさらに酷いことになりそうだ。


 威力にかんしては十分すぎるということが良く分かった。大親方達もオブリさんも、一体何と戦うことを想定してこの魔道具を馬車に設置したのだろう。


「とりあえず、これで盗賊や魔物に襲われてもアルジャひとりで何とかなりそうなことはよく分かったな」


「ええ……よほどの相手でなければ、まったくもって脅威ではなさそうですね」


 馬車に仕込まれた魔道具の威力にアルジャも若干引き気味だ。なんかもう戦いというよりも蹂躙という言葉がよく似合いそうだな。


「まあ、いい練習台になったと思おう。キャンプ場で試運転した時とは違って、実際に相手がいるとでは別物だからな」


「ええ。これで盗賊や魔物に襲われても落ち着いて対処できそうです」


 逆にこの盗賊達にはこの馬車の戦闘訓練に役立ってくれたから感謝したいくらいだ。


「ユウスケ、森に潜んでいた賊を捕えてきました」


 森の中にいた伏兵2人はソニアの弓矢によって意識を失っているようだ。よくもまあ森の木々の後ろに隠れているこいつらを弓矢で射られるものだよ。さすが休業中とはいえAランク冒険者だけのことはある。


「ありがとう、ソニア。さてと、問題はこいつらをどうするかだな」


「街が遠ければ処分して埋めるところですが、幸いヴィオの街まではもう少しですからね。面倒ですがそこまで連れていくとしましょう」


 確かに数人ならともかく、10人もの盗賊達を連れながら近くの街にまで連れていくのは難しいので、通常なら数人を残して残りはその場で埋めて先を行くそうだ。残酷なように思えるが、これがこの世界の常識らしい。


 とはいえ、元の平和な世界から来た俺にはそんなことをできそうにないし、面倒でも近くの街まで連れていっただろうな。今回は目的地であるヴィオの街までもう少しなので、拘束した盗賊達を街まで連行していくとしよう。




「それじゃあアリエス、ゆっくりと進んでくれ」


「ブルルル!」


 盗賊達の拘束を終えて、馬車がゆっくりと動き出す。馬車の後ろには数珠つなぎに繋がれた盗賊達がいる。持ち物をすべて没収し、ストアで購入したキャンプ用のロープで盗賊達の手をしっかりと縛って、この馬車に結んでいる。


 そして盗賊達のうちの2人は風魔法の当たり所が悪く、足を骨折して歩けなかったので、拘束した状態でキャンプ用のキャリーワゴンに乗せている。そのキャリーワゴンを馬車の後ろにこれまたロープで繋いで、馬車と一緒にアリエスが引っ張ってくれている。


 キャンプ用のキャリーワゴンは組み立て式の台車のようなキャンプギアで、主に駐車場に停めた車からキャンプ場にキャンプギアを運ぶためのものである。最近のキャンプギアは結構重量のあるものが多いから大変なのだ。


 うちのキャンプ場で力持ちなソニアやウド達はそのままテントや寝袋などを運んでいるが、お客様が多い場合に俺やサリアはこの台車を使っている。


 まあ、間違っても人を乗せて運ぶための道具ではないから何とも言い難いところであるが、歩けなくなった盗賊をその場で放置するよりはいいだろう。放置して魔物にやられるだけならまだいいが、万が一生き延びてまたこの道で人を襲ったり、キャンプ場へ復讐に来たりされたら面倒だもんな。


「一応大丈夫そうだ。ソニア、逃亡しようとしたら遠慮なく射ってくれ」


「わかりました」


「その時は私もお手伝いしますね!」


「そ、そうだな。その時にはサリアにもお願いするよ」


「「「………………」」」


 盗賊達も先ほどの馬車の戦闘能力とソニアの弓の腕を見て完全に戦意を喪失したらしい。向こうの攻撃は一切届かず、こちらの攻撃だけが一方的に届くんだもんな……さすがに諦めもつくというものだ。


 そういえば、この前サリアの攻撃魔法を見せてもらったのだが、なんかもうすごかった。この世界の攻撃魔法は本当に殺傷能力に優れているんだよね。それこそ定番のファイヤーボールひとつあれば余裕で人ひとりを簡単に殺せてしまう。


 俺は本当に結界とストアの能力で良かったなと神様に改めて感謝をした。たとえ魔法を使えたとしても、魔法をぶっ放しての戦闘とか俺には絶対に無理だぞ。




「ユウスケさん、海が見えてきましたよ」


「おお、本当だ! となるとあそこの大きな街がヴィオの街か!」


 拘束した盗賊達を連れて数時間ほど進むと、地平線の先に青く大きな海が見えた。そして海に隣接した場所には壁に囲まれた大きな街が見えた。どうやらあれがヴィオの街のようだ。


 盗賊達に襲われるというハプニングもあって、予定よりも到着が少し遅くなったが、誰も怪我をすることなく無事に目的地へ到着した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る