第224話 馬車の性能テスト


「おい! さっさとそこから降りてこっちに来い!」


「抵抗しなければ命までは取らねえよ。へっへ、そっちのダークエルフの女には殺すどころか最高の経験をさせてやるぜ!」


「武器を持っているようだが冒険者か? 言っておくが、武器を手にした瞬間にぶっ殺してやるから大人しくしていろ!」


 ……本当に腐ったやつらだな。まあ山賊やら盗賊やらをやっている時点でいいやつなんかいるわけはないか。だが今回に限っては、逆にこういった輩のほうがこちらとしても何も気にしないで済むからある意味ではありがたいのかもしれない。


 盗賊達がゆっくりと馬車に近付いてくる。弓を構えた盗賊達はアルジャとソニアを狙っており、2人が敵対行動を起こせばすぐに弓を射る気だ。


「アルジャ、頼む!」


「了解です!」


「おい獣人、動くんじゃねえって言ってんだろ! おらっ、死ね!」


 俺の号令でアルジャが動いた。そしてそれと同時に盗賊達がアルジャに向けて弓矢を放った。


 キンッ、キンッ


「なっ、なに!?」


「弓矢が弾かれただと?」


「馬鹿な! 無詠唱の魔法か!?」


 しかし、盗賊達の放った弓矢は、アルジャから離れた場所で、障壁によって防がれた。


 そう、これこそがこの馬車にオブリさんとダルガ達が搭載してくれた魔道具の力である。アルジャが御者の席にあるスイッチを押すことによって、エルフ村にある障壁魔法と同じ半透明で楕円形の形をした障壁魔法が馬車の周囲をアリエスごと覆った。


 放たれた弓矢がその障壁に衝突すると、硬い金属にでもぶつかったように弾かれて地面に落ちる。この魔道具による障壁魔法の強度はかなりのものなので、盗賊が放った弓矢ごときで破れるものではなかった。


 ちなみに念のためではあるが、アルジャにはその弓矢を避けるように伝えてある。元Bランク冒険者であるアルジャなら、盗賊レベルの弓矢くらい回避することも可能らしい。


「なんだこりゃ!? 馬車が消えちまった!」


「……いや、よく見やがれ! うっすらとだが、そこに何かあるぞ!」


「本当だ! ここに壁みたいなもんがありやがる!」


 この障壁魔法はエルフ村の障壁と同じで、幻影によって目で捉えにくくする魔法のため、木々が生い茂る森ではなく、このような見晴らしの良い道では完全に姿を消すようなことは難しい。まあ本当に逃げるためだったら、障壁魔法を馬車の周りに展開しながらアリエスに走って逃げてもらっている。


「はんっ! 俺の目はごまかせねえぜ! おいてめえら、こんな壁ごときぶち破ってやれ!」


「よっしゃあ!」


 盗賊達が障壁に近付いて持っていた剣や槍で障壁を破壊しようとするが、この障壁は盗賊達の攻撃をすべて弾いていく。うん、どうやら大人数であろうとも、ちょっとやそっとの攻撃ではこの障壁は破れないようだ。


「だ、駄目だ、お頭! いくらなんでも硬すぎるぜ!」


「くそったれ!こんな広範囲の魔法が長時間続くわけがねえ! このまま攻撃し続けろ!」


「へい!」


 どうやら他の盗賊達に指示を出している、あの中で一番凶悪そうな顔をしている男が、こいつら盗賊団のリーダーのようだ。……あれっ、ひょっとしたらこいつよりも冒険者ギルドマスターのドナルマさんの顔の方が怖かったりしない?


「馬鹿なっ、こっちの剣のほうが欠けちまっただと……」


 どうやら馬車に搭載されたこの障壁魔法の強度は十分そうだな。ちなみにこの魔道具は充電式の電地のように魔力を充電して使用する。魔力の残量が減ってきたら、ソニアやサリアやアルジャたちが魔力を補充してくれる。


「耐久性能の方は十分そうだな。アルジャ、次は攻撃の方を頼む」


「はい」


 盗賊達がそれほどヤバい相手でないことがわかったので、この馬車の性能テストを行わせてもらった。もちろん、これくらいの相手なら何があっても大丈夫だという確信があってこそできるテストだがな。だがそれももう十分だ。


 アルジャが御者の席からこの馬車の屋根に上り、屋根に設置してある長方形の箱のカバーを外す。その中には金属製の細長い筒が馬車の屋根に固定されており、アルジャがその筒の反対側を持ち、90度回転させて筒の先端を盗賊達の方へ向けた。


「なんだありゃ、変な筒が出てきたぜ?」


 この筒の先の部分は障壁魔法の部分からはみ出る形になるので、盗賊からはここの部分だけが見えてしまうのだろう。


 ダダダダダダダッ


「「「ぎゃああああああ!!」」」


 うわ、エグっ!


 馬車の上に固定してある発射台から、こぶし大の風の弾丸が連射されて盗賊達を襲っていく。さながらアメリカの映画に出てくる機関銃を連射した時のように盗賊達を薙ぎ払っていった。


 アルジャが攻撃を止めたあと、そこに立っている者はひとりもいなかった。恐ろしいことに今の魔道具の攻撃は風魔法の弱攻撃なんだよね……どうやら微妙に動いているから、さすがに死んではいないと思う。


 あれより上の中攻撃とか強攻撃とか考えたくないわな……しかも風魔法の弾丸だけでなく火魔法まであるので、普通の盗賊や魔物ならオーバーキルもいいところである。


「……ソニア、障壁魔法の魔道具を解除して、林の中に潜んでいる残りのやつらを頼む」


「了解です」


 ソニアがスイッチを押して馬車の魔道具を解除し、そこから弓矢を放ち、林の中に潜んでいた残りの盗賊達を射る。


 ……終わってしまえば圧倒的かつ一瞬だったな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る