第223話 待ち伏せ
朝食を食べた後の道のりは順調そのものだった。馬車を引いてくれるアリエスは昨日の疲れをまったく見せずにヴィオの街への道のりを進んでいく。
昼になって一度道端で馬車を停め、アリエスの休憩をしながら昼食をとる。昼食の内容は朝ご飯を作る時に一緒に作っておいたホットサンドを温かいままソニアの収納魔法で保存してもらっておいた。
やはり長い道のりを進んでいく際に収納魔法があるとものすごく便利だ。ソニアが収納できる量は少なくても、俺のストアの能力で購入したキャンプギアは収納できるので、二人の分を合わせればかなりの量の荷物を収納できる。
アリエスにも昼食と休憩を十分にとってもらって先へ進む。……うん、みんなが言っていたように、これだけ長時間馬車に乗っていると、馬車からの風景には少し飽きてくるな。ファンタジーな風景があるだけでもなく、元の世界の田舎道をひたすら走っているような感じだもんな。
「っ!? アリエス、止まってください!」
「ブルル!?」
「うわっ!」
「きゃっ!?」
目的地のヴィオの街までもう少しというところで、御者をしていたソニアがアリエスにブレーキをかけた。後ろの席が大きく揺れるが、馬車の構造上アリエスに固定されており、それほどまで急な衝撃にはならなかった。
「ソニア、どうした!?」
「……前方左側の林の中に多数の気配あり。何者かが待ち伏せている可能性が高いです」
「マジか!?」
くそっ、最近はキャンプ場に盗賊は現れなかったから少し気が緩んでいたが、やはりこの世界には魔物や盗賊が普通に現れるんだよな!
「さすがソニアさんです! 私は全然気付けませんでした……」
「私は弓使いですから、普通の人よりも生物の気配を察知する能力には長けているのですよ。……相手は10人近くいるようですね。道ではなく、林にこれだけの大人数で移動せずに待ち伏せをしていることから、旅をする行商人を狙う盗賊と推測されますが、どうしますか?」
すごいな……よくそんな情報まで分かるものだ。さすがAランク冒険者かつ、いろいろな国を旅してきたソニアだな。
「俺達で対処できそうな相手かはわかりそうか?」
「おそらく問題ありませんね。この距離で気配を漏らしているような相手でしたら、私一人でも十分に対処できるでしょう。以前にキャンプ場を襲ってきた盗賊達のほうがよっぽど強いと思います」
「……了解だ。最悪こっちには結界もあるし、事前に決めていたようにそのまま進もう」
すでに盗賊や魔物が出た際にどのように行動するかはみんなと予め相談してある。前に現れたイノシシ型の変異種レベルの敵が現れたら即座に撤退するつもりだが、戦闘をしても問題がなさそうな相手なら基本的に相手をする。
「承知しました」
「予定通りアルジャはサリアと御者の席を変わってくれ」
「わかりました」
「はい!」
事前に脅威を察知できた場合、予定通り御者の席にはアルジャとソニアに座ってもらう。
「アリエス、怖いかもしれないけれど頼むぞ!」
「ブルル!」
任せてくれというようにうなずいてくれるアリエス。こういう時にアリエスが俺達の言葉が理解できてくれるのは本当に助かる。
普通の馬だったら、盗賊や魔物が現れたら暴走してしまう可能性も高いからな。それにアリエスなら俺の結界のことも知っているから、俺達を信じて動いてくれるはずだ。
「一度馬車を停めたので襲ってこない可能性もありますが、そのまま進みますので、みなさんは準備をお願いします」
「ああ、襲われないならそれでいいよ」
理想を言えば、この道を通る他の人が襲われる可能性があるため、盗賊達は全員捕まえておきたいところではある。しかし、うちの店の従業員が傷つく可能性がある以上、林の中を追ってまで無理に戦闘する気はない。
盗賊は林の中に潜んでいるという話だし、そんな視界の悪い場所で戦闘をすれば、いくら強いソニアやアルジャでも万が一の可能性がある。襲ってこないならこないで、そのままヴィオの街の衛兵や冒険者ギルドに報告すれば十分だ。
「……近付いてきますね。やはり相手は引く気がないようです。殺気もするので襲ってくる気は満々のようですね」
「了解。こちらからは手を出さず、盗賊と確認出来たら即座に反撃するよ」
「待ちな!」
「おら、馬車を停めやがれ!」
「下手な動きを見せるんじゃねえぞ!」
道の前に8人の人影が現れ、馬車の行く手を阻む男達。人相が悪く、汚れた服装をしており、すでに剣やナイフなどの武器を抜いている。もしかしたら服装は林の中へ紛れ込むために汚い色をしているのかもしれない。
8人ということは他のやつらは伏兵としてまだ林の中にいるかもしれない。そちらの方にも注意しておかなければならないな。
「ほう~近くで見りゃあなかなか上玉じゃねえか!」
「ダークエルフとは珍しいな! 怖くて声も出せないってかあ?」
「へっへっへ、もう一人胸の大きなエルフが後ろに乗っていることも確認しているぜ!」
どうやらこちらの動きを事前に見た上で襲ってくるようだ。人数的に問題ないと判断したのか、たまたま御者を交代しただけと思ったのかもしれない。
「おい、そこの獣人! 大人しく女と金と積み荷を置いて行けば命だけは助けてやる。どこへでもでもさっさと消えていいぞ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます