第222話 河原でのコーヒータイム
「はあ~たまには朝のコーヒーもいいもんだな」
朝の日差しがまぶしく、川の流れる音を聞きながら、アウトドア用のコーヒーミルで挽きたてのコーヒーを味わう。ストアの能力で購入したコーヒー豆はそこまで高級なものではないが、挽いたばかりのコーヒーの香りはインスタントのそれとはまるで違う。
「本当にいい香りだ。たまには屋外でコーヒーを飲むのもいいかもしれない」
「ああ。今度キャンプ場にある川でコーヒーを飲んでみるか」
「僕はこっちのココアのほうが甘くて好きです」
昨日はアルジャと見張りを終えたあと、ウドとイドに見張りを変わってもらってからもうひと眠りしたのだが、やはり久しぶりに外で寝ていたこともあって、だいぶ朝早くに目が覚めてしまった。
もう一度眠る時間はなさそうだったので、見張りをしていたウドとイド達と合流してコーヒーとココアを飲んでいる。ウドとイドはいろんな街を歩いて旅してきたため、野営などはしょっちゅうだったようだ。
ちなみにコーヒーについてはキャンプ場の中でも好き嫌いがだいぶ分かれている。というよりもコーヒーを好んで飲むのは男性陣の俺とアルジャとウドだけだ。女性陣はミルクココアや紅茶のほうが好みらしい。
「ココアもうまいよなあ。今日は温かいけれど、寒い日の朝なんかにはピッタリなんだよ。みんなも起きてきたら飲みたがるだろうから、今のうちにお湯を沸かしておくか」
まだみんなは寝ているが、日も出てきたし、そろそろみんなを起こす時間だ。
「……ユウスケ、俺とイドを雇ってくれて本当に感謝している」
「急にどうしたんだ、ウド?」
なんだか、ついさっきアルジャと話していたことを思い出す。
「前からずっと思っていたのだが、ちょうど良い機会だからな。亜人である俺とイドをあのキャンプ場で雇ってくれてありがとう。ユウスケのおかげで俺もイドもこうして人並み以上の生活を送ることができた。イドの病弱な体質も改善されて今もこうして旅ができている」
「ユウスケさんやキャンプ場にいるみんなは亜人である僕達を受け入れてくれて、普通の人と同じように接してくれました! 本当にありがとうございます!」
ウドとイドが俺に向かって頭を下げてきた。
「……お礼を言うのはこっちのほうだよ。あのころのキャンプ場はソニアとサリアしかいなくて、本当に人手が足りなくて困っていたんだ。力持ちのウドと料理の上手なイドがキャンプ場に来てくれて本当に助かっていたんだぞ。イドの体質について俺は何もしていないし、みんなも種族なんて細かいことを気にしていないだけだよ」
実際のところ、キャンプ場がオープンした当初は本当に忙しくて人手が足りていなかった。そんな時に力持ちのウドと料理が上手なイドがキャンプ場に来てくれて本当に助かったのだ。
それにイドの体調が良くなったことに俺は関与していない。きっと自然の多いキャンプ場で、温泉に入って清潔に生活し、しっかりとした食事を取ったことが良かったのだろう。
種族に関してはうちのキャンプ場で人族は俺だけだし、お客さんも人族以外の種族がとても多いから、誰も種族なんて気にしていないだけだ。
「……ユウスケならそう言うだろうと思っていたが、あの場所が少し特殊なだけなんだ。酷い村や街では迫害までされているくらいだからな。俺達もユウスケに拾われなければ、どこかで野垂れ死んでいただろう。この恩は絶対に忘れないからな」
「わかった、もうそういう話はやめよう! 過程はどうであれ、今はこうして同じ場所で働いて、お互いに感謝しているんだからそれでいいだろ。もしも俺に恩を感じているようなら、できるだけ長くキャンプ場で働き続けてくれ。俺やみんなにとってはそれがなによりありがたいぞ」
今ふたりに抜けられるのはキャンプ場にとって相当な痛手である。恩を返すというのなら、このままキャンプ場で働いてくれるだけで十分過ぎるほど十分だ。
「……やっぱりユウスケさんはユウスケさんですね」
「……ああ。ユウスケはユウスケだな」
「んん?」
よくわからないところで2人が納得している。
まあこの様子なら悪い意味で言っているわけではないだろう。
「さあ、明るくなってきたし、もう盗賊や魔物が近付いてきたらすぐにわかるだろ。そろそろ朝食を作り始めるか。2人とも手伝ってくれ」
「ああ、任せておけ!」
「はい!」
朝食はパン、スクランブルエッグ、ソーセージ、ベーコン、サラダ、コーンスープといった洋風のものにした。普段キャンプ場では和食の朝食だし、お客さんにはホットサンドを提供しているから、たまには洋風の朝食もいいものだ。
まあ、朝日の差し込む河原でみんなと一緒に朝食を取れるだけで、普段の朝食よりもおいしく感じるというものだろう。みんなが起きて、朝食を食べたあとはすぐに片付けをして出発した。
予定通りいけば、今日の夕方ごろには目的地であるヴィオの街に到着する予定だ。今のところは順調そのものだが、油断はしないようにしないとな。
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