第220話 野営


「水ようかんですか。初めて見るお菓子ですね」


「小さくて綺麗なカップに入っていますね」


「ユウスケさん、これはどういうお菓子なんですか?」


「なんだかプルプルしているニャ!」


 ソニアだけでなくサリアとイドとアルエちゃんまで興味津々のようだ。意外とみんなまだ食べられるんだな……


 とはいえ、この水ようかんはさっぱりとしているし、ひとつひとつが小さいので、これなら俺もひとつくらいは食べられそうである。


「水ようかんは寒天という冷やすと固まるものに砂糖とこし餡を加えて、煮詰めてから冷やして固めたものだよ。餡は和菓子とかに使っていたやつだね」


 さすがに水ようかんは作ったことがないけれど、確かそんな作り方だった気がする。今回ストアで購入した水ようかんは小さなカップに入っているものだ。


 カップから押し出して皿の上に乗せるとプルプルと震えている。確か竹筒から押し出すタイプとか、普通のようかんと同じ形をしていて自分の好きな厚さに切るタイプもあったよな。


「いいですね、冷たくてみずみずしくて、いくらでも食べられそうです!」


「つるっとした食感がとってもおいしいですね!」


 水ようかんはさっぱりとしていて普通のようかんよりも食べやすいのが特徴だ。これなら軽めなので、食後でも少し食べられる。


「あっさりとした甘さがいいな。今日みたいな暑い日にはピッタリだ」


「ええ。甘すぎず、上品な甘さですね。私もこのお菓子はとても好きな味です」


 ウドやアルジャ達男性陣にも人気のようだ。確かにケーキとかよりも甘さが控えめなので、こっちのほうが好きという気持ちもわかる。俺は甘いもの好きだからケーキも水ようかんも同じくらい好きだな。





 デザートまで楽しんだあとはみんなで手分けをして後片付けをした。当然のことだがキャンプをしたあとの片付けはしっかりとしなければならない。来た時よりも美しくというのが基本だな。


 焚き火台を使用して地面にダメージがないようにしているし、洗い物も油が付いた鍋やお皿は川で洗わずにクッキングペーパーで拭いてキャンプ場に持ち帰ってから洗う。


 幸い俺のストアの能力で購入した物は収納できるようになっているからな。後片付けも普通よりは楽ちんである。


「それじゃあ交代の時間になったら起こしてくれ」


「ええ。もしも起きなかったら水をかけてでも起こしますから」


「……できれば普通に起こしてくれ」


 ソニアの場合本当にやりかねないから困る……


「さすがに冗談ですよ。それにしても野営で見張りをするのも久しぶりですね。たまにはこういうのもいいものです」


「私も久しぶりです。キャンプ場にはユウスケさんの結界があるから、ついつい油断しちゃいそうですよね」


「確かに昨日までは安心して眠れたからな……まあ、何かあったら結界を展開できるから、その時はすぐに呼んでくれ」


 ご飯を食べたあとは片づけをしてすぐに就寝だ。こちらの世界では基本的に夜は早く寝て朝は早く起きる。夜に馬車を動かすことは危険なので、動けない夜はさっさと寝て、日が昇ってすぐに行動するほうがいい。


 この世界では盗賊や魔物が普通に現れるので、夜はしっかりと見張りをおかなければならない。さっきまではみんなと楽しいキャンプ気分だったのだが、一気に現実に引き戻されたな。やはりキャンプと野営は違うようだ。


 俺の結界はキャンプ場に固定してあるので、野営の際は交代で見張りをすることになる。最初はソニアとサリア、次に俺とアルジャ、最後にウドとイドの順番だ。見張りはひとりだとつい眠ってしまう可能性があるので、基本的には2人1組でおこなうらしい。




「ユウスケ、起きてください」


「うう~ん」


「……サリア、水魔法で冷たい水をお願いします」


「ええっ!? た、たぶんすぐに起きてくれますよ! ユウスケさん、起きてください!」


「ああ、見張りの交代の時間か……」


 まだはっきりと目が覚めていないが、悪魔みたいな声のあとに天使のような声が聞こえて目が覚めた。そういえば今日は野営をしていたんだっけな。


「アルジャはもう起きて先に見張ってくれていますよ。ユウスケも早く見張りをお願いします」


「ああ、了解だ。2人は特に問題なかった?」


「ええ、辺りを見回せる河原でしたし、特に何もありませんでしたよ」


「椅子が柔らかくて気持ちよかったから、少しだけ眠りそうになっちゃいました」


「なるほど、見張りをする時はあんまりいい椅子じゃないほうがいいのかもな。……よし、完全に目が覚めた。それじゃあ2人はゆっくりと休んでくれ」




「アルジャ、お待たせ」


「いえ、全然大丈夫ですよ」


「見張りとかはしたことがないんだけど、気を付けたほうがいいことってある?」


 キャンプで焚き火は何度もしたことはあるが、見張りをするのは初めての経験だ。


「今日は後ろ側が川なので前のほうを集中して見てもらえれば大丈夫ですよ。後ろの川から近付く魔物や人がいれば音ですぐに気が付けます。それよりも怖いことは2人ともウトウトしてしまうことですね。みなさんを起こさないように小さな声で話をしていれば大丈夫ですよ」


 アルジャはネコの獣人で、普通の人族よりも夜目が効いて耳もいいそうだ。俺も見張りを頑張るというよりは、アルジャが眠らないように話し続けることが大事そうだな。

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