第219話 暑い日にはこれ


「よし、晩ご飯ができたぞ」


「見たことがない料理だな」


「これはとても細い麺ですね」


「ああ、今日は結構暑かったからな。さっぱりとしたそうめんという麺料理だ」


 日が暮れ始めたこの時間帯になっても、今日はまだだいぶ暖かい。こんな時にはさっぱりとしたそうめんに限る。


 こちらの世界にも小麦粉を使ったパスタやうどんのような麺料理はあるが、さすがにそうめんはみんな見たことがないらしい。似たような麺はあっても、そうめんのような極細の麺に加工するのはなかなか難しいのだろう。


「こんな感じで氷で冷やしてある麺を取ってつけ汁につけて食べるんだ。天ぷらと一緒に食べてもおいしいよ。あとはみんなが釣ってきてくれた川魚の塩焼きもひとりひとつずつあるからな」


 大きな器に茹でたそうめんをいれて、サリアが水魔法で作ってくれた氷によって麺を冷やしている。そうめん自体は茹でるだけで、天ぷらは馬車に乗せて持ってきた野菜と肉を油で揚げた。


 川魚はシンプルに串に刺して炭火で焼いてある。味付けは塩を軽く振ってあるだけだ。醬油と大根おろしも良いのだが、そこまで大きな川魚ではないので、塩焼きにしてそのままかぶりつくのがいいだろう。


「うわあ、冷たくてサッパリしていておいしいです!」


「つるっとしていてとってもおいしいニャ! こっちの天ぷらもサクサクしているニャ!」


「天ぷらのほうは冷たいつゆに少しつけると、食材の旨みと天ぷらの油がつゆに染み込んでよりおいしくなるよ」


 一緒にこの料理を作ったイドもアルエちゃんもおいしそうにそうめんを食べている。温かい天ぷらに冷たいそうめんのつゆをつけて、そうめんと一緒に食べるとこれがまたうまいんだよね!


「こちらの温かいつゆのほうにつけてもうまいな。冷たくて細い麺と温かいつゆの組み合わせも面白い。俺はこちらのほうが好きかもしれない」


「ええ。それにこちらの温かいつゆにはいろいろな具材が入っていて、この細い麺と一緒に食べるととてもおいしいですよ」


 ウドとアルジャが食べているのは温かいほうのつゆだ。今回そうめんには2種類のつゆを用意した。ひとつ目は普通のめんつゆをサリアが作ってくれた氷を使って冷やしたものだ。


 そしてもうひとつは肉、ネギ、キノコ、野菜を炒めたものに水とめんつゆを加えてひと煮立ちさせた温かいつゆである。そうめんと言えば冷たいつゆが基本だが、温かいつゆもなかなかうまいんだよ。


 温かいつゆに冷たいそうめんを一瞬くぐらすことによって、冷たいと温かいを同時に味わえて、箸が止まらなくなってしまう。ごま油で炒めた温かい肉と野菜の具材がこれまた冷たくて細いそうめんとよく合うんだよね。


「ブルルル♪」


「アリエスもとってもおいしいって言ってるニャ!」


 アリエスの分は個別で大きな器に盛り付けてあり、器用にそうめんをくわえてつゆにつけてからちゅるちゅると食べている。今日はずっと馬車を引っ張ってくれたからだいぶお腹も空いているのだろう。


「これはいくらでも食べられてしまいますね! 今日のように暑い日にはピッタリです!」


「みなさんが釣ってくれたこのお魚もおいしいです。キャンプ場で食べるのとは違って、外でみんなで食べるご飯もいいですね!」


 ソニアもサリアもおいしそうにそうめんや魚の塩焼きを食べてくれている。サリアの言う通り、いつものキャンプ場で食べる雰囲気とは違って、こういうのもいいものである。


 元の世界でもそうだが、キャンプとは普段と違う非日常感を味わうものでもあるからな。今ではキャンプ場にいるのが当たり前の生活になっているから、こうやって別の場所に来て、みんなで役割を決めて料理を作ることが元の世界で言うキャンプをする感覚なのだろう。


 アリエスのおかげでみんな一緒に遠出ができるようになったことだし、たまにこうやって別の場所にキャンプしに行くというのも悪くないのかもしれない。




「ふう~おいしかったな」


「とってもおいしかったですね」


「お腹いっぱいだニャ!」


 そうめんは少し多めにひとり1.5束分くらい茹でたのだが、途中で麺が足りなくなって慌てて追加で麺を茹でた。そうめんってするすると入っていくからおなかが空いているときは2束くらい簡単に入ってしまうんだよね。


 暑い時期に行くキャンプ場でそうめんというのもおつなものである。今度キャンプ場で流しそうめんなんかをやってもいいかもしれない。


「ユウスケ、今日の分のケーキをお願いします」


「まだ食べられるのかよ……」


 みんなお腹いっぱいになったところで、ソニアからケーキの催促が入った。


 いやまあ確かに今日はキャンプ場で週に2回ほど設けているデザートの日ではあるが、さすがにこの量のそうめんを食べてからケーキを求められるとは思わなかったぞ……


「ケーキは別腹ですよ」


 いや、軽い果物やデザートなら別腹という言葉で許されるかもしれないが、さすがにケーキは重いだろ……少なくとも今俺にケーキは無理だな。


「それじゃあケーキ以外のお菓子にするか。あれならサッパリしているし、今日みたいな暑い日にはびったりのお菓子があるぞ」


「新しいお菓子ですか! ええ、もちろん構いませんよ!」


 ストアで目的のものを購入する。さすが飲み物の冷たいか温かいかを選択できる超有能なストアの能力、ちゃんと冷えた状態で購入できるようだ。相変わらず神様からもらったストアの能力は超有能だ。


「ほら、これが水ようかんだよ」

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