第218話 河原でキャンプ


「みんなはヴィオの街に行ったことがあるんだっけ?」


「ええ。私は数年ほど前に依頼の関係で行ったことがありますよ。海が見える綺麗な街でした」


 ソニアは今向かっているヴィオの街に行ったことがあるらしい。さすがこの中でもレベルの違う最年長者である。……そんなことを言ってしまうと鋭い目つきをしながら斬りかかってくるだろうから、絶対にソニアの前では言わないけど。


「俺とイドはいくつかの街を渡り歩いてきたが、ヴィオの街は初めてだ」


「僕もそのころは体調を崩してばっかりだったから、村の外に出たことなんてほとんどなかったです」


 ウドとイドは故郷の村がなくなってしまったあと、いくつかの村や街を渡り歩いてからあの街にやってきたらしいがヴィオの街には行ったことがないようだ。


 イドも最近は体調がだいぶ良くなって今は普通に生活している。今回もそのおかげで1週間の旅行について来られるようになったのだが、なんでイドの体調が良くなってきたのかは分かっていないんだよな。


 う~ん、あのキャンプ場の辺りの空気が良かったからか、栄養のある食事を日常的に取っていたからか、キャンプ場の温泉に毎日入っているおかげのどれかだと睨んでいる。


「イドも体調がだいぶ良くなってきてなによりだよ」


 第三王女のエリザさんも最近は体調が良くなってきたと言っていたし、今のところはあの温泉の可能性が高いか。……エリザさんに限っていえば、第一王子のレクサム様から離れたおかげという可能性もなきにしもあらずだがな。


 とはいえあの様子だとレクサム様がシスコンであることは本人にはバレていないみたいだし、その可能性は低いか。


「私達は何度か訪れたことがありますね。ですが数年ぶりです」


「お魚がとってもおいしかったニャ!」


「ブルルルル!」


「アリエスは初めてだって言っているニャ!」


「なるほど」


 馬車の御者の席にはアルジャとアルエちゃんが座っており、その前にはアウルクのアリエスがいて馬車を引っ張っている。


 アリエスが共通語を理解しており、特に御者の技術は必要ないので、何度か休憩を入れる際に御者を交代していく予定だ。


 ヴィオの街に行ったことがあるのはソニアとアルジャとアルエちゃんか。とはいえ数年ぶりのようだから多少は様変わりしているだろうな。






「ユウスケさん、目的地の川が見えてきましたよ」


「道を外れて川のほうまで進めばいいのだな」


「ああ、川のほうまで進めてくれ」


 御者をしてくれていたイドとウドがアリエスに頼んで馬車を少し進めてから停めてくれた。馬車を降りると、そこにはキャンプ場の横にある川よりも少し大きい川がある。流れは平地なだけあって穏やかだ。


 予定通り、今日はこの川の横でキャンプをする。まだ日も暮れていない時間だが、急ぐ旅ではないので今日はここまでだ。


「アリエスもお疲れさま。ゆっくりと休んでくれ」


「ブルルルル!」


 今日一番疲れたのは間違いなくアリエスだ。今のところは余裕そうに見えるが、明日も長い距離を走ってもらうので、今日はゆっくりと休んでもらわないとな。


「さて、それじゃあ今日はここでキャンプをするから、手分けして準備をしよう」


 あらかじめ馬車の中で作業を分担していた通りに作業を分担していく。


 キャンプ場以外でみんなとキャンプをするなんて初めてだから少しワクワクする! いつものキャンプ場でのキャンプも楽しいのだが、行ったことがない場所でのキャンプも楽しいものである。


「川の側で料理をするのもなかなかいいな」


「そうですね! なんだか新鮮な感じです」


「みんなでお出かけは楽しいニャ!」


 俺はイドとアルエちゃんと今日の晩ご飯を作っている。サリアとアルジャはテントやイスなどを設営してもらっており、ウドとソニアには川で釣りをしてもらっている。


 最近ではアルエちゃんも料理の手伝いをしてくれたり、お客さんへの注文を受けたり、調理器具の貸し出しなども手伝ってくれている。


 今は半人前ではなく、4分の3人前くらい働いてくれている。残りはどうしてもアルエちゃんの身体の大きさや力ではできないこともあるからな。


「ユウスケさん、テントとイスの設置が終わりました」


「了解、ちょうどよかった。サリア、水と火を頼む」


「はい!」


 サリアがいれば、水や氷を出すこともでき、火を起こす手間も省ける。魔法を使える人がいると本当に野営が楽になるよな。まあ火を起こすのもキャンプの楽しみと言えなくはないが、明日もずっと馬車で移動をするわけだし、余計な作業はないほうがいい。


「私は釣りのほうを手伝ってきますね」


「ああ、アルジャも頼むよ。人数分まではいかなくても4~5匹くらい釣れると嬉しいんだけどね」


 いちおう食材は十分過ぎるほど持ってきたし、俺のストアの能力で購入することはできるが、せっかくなら川で釣った魚をその場で食べるという楽しみを味わいたい。




「ユウスケ、人数分は確保できたぞ」


「おお! さすがウド、大漁だな!」


 ウド達が川魚の8匹も入ったバケツを持ってテントを張ったこちらのほうまで戻ってきた。それほど時間が経っていないのにこんなに釣れたのはすごいぞ。


「半分くらいはみんなで釣ったのだが、最後はちょっと強引にな……」


「強引?」


「私の風魔法で川から直接魚をはじき出しました。晩ご飯は期待しておりますよ」


「………………」


 ……釣りを楽しむ風情もへったくれもないが、風情で腹は膨れないので気にしてはいけないな。


 なんにせよウドとソニアとアルジャのおかげで川魚も手に入った。さて、河原での晩ご飯を楽しむとしよう。

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