第202話 自家製ピザ


「……ふあ~あ、よく寝たな」


 昨日は夜遅くまでドワーフのみんなと酒を飲んでいたから、だいぶぐっすりと眠っていたようだ。時計を見るともう11時になっている。


「たまには昼まで惰眠をむさぼるのも悪くないな」


 今日キャンプ場は休みなので、目覚まし時計をかけずに寝ていたら、昼前まで眠ってしまったらしい。


「おはようソニア……ってあれ、ソニアだけ?」


 1階に降りると、そこにはソニアがいつも通りリクライニングチェアに座りながら漫画を読んでいた。だが他の従業員のみんなの姿は見えなかった。


「おはようございます。みんなはもっと早く起きて、各自でのんびりと過ごしておりますよ。というかもうすぐお昼なんですが……」


「昨日は夜遅くまでダルガ達と酒を飲んでいたからな。どうせ今日は休みだし、ぐっすりと寝てたよ」


「ユウスケは相変わらず怠惰ですね」


「……いや、ソニアだけには言われたくないぞ」


 暇さえあれば、椅子に座って漫画を読んでいるソニアには言われたくない。いやまあ、仕事自体は真面目に働いてくれて、人並み以上の働きをしてくれているんだけどな。


「他のみんなはどうしてる?」


「アルジャとアルエちゃんとアリエスはダルガ達と一緒に遊んでいるみたいですね。ウドとイドはドワーフのお弟子さん達と釣りをしています。サリアは魔法の練習をしているようですね」


「なるほど」


 みんなそれぞれ休日を楽しんでいるみたいだ。


 ……この時間まで寝ていたのは俺だけか。昨日ドワーフのみんなは俺以上に飲んでいたが、元の世界の酒にもだいぶ慣れたようで、全然酔わなくなってきたもんな。


 最初のころに二日酔いで酔いつぶれていたのが懐かしいぜ。ちなみに俺は昨日ちょっと飲みすぎたみたいだから、今日は控えめにしておこう。


「そんじゃあ俺も朝飯兼昼飯でなにか作るとするかな。おっと、先にサリアにパン窯の火をお願いしないと」


「昨日のパンみたいにおいしい料理を期待しておりますよ」


「………………」


 どうやら手伝う気はまったくないようである。まあ、普段はこれだけど、やる時はやってくれるからな。……たぶん。






「今日はピザを作ってみた。ダルガ達は初めてだったよな」


「ぴざ……?」


「なんじゃその料理は?」


 俺やキャンプ場のみんなはエルフ村ですでにご馳走になったが、ダルガ達は初めてになる。


「ピザは小麦粉を練った生地にトマトソースを塗ってから具材を乗せて、その上へさらにチーズをのっけて焼いた料理だよ」


 ピザ生地とパン生地の材料は同じだが、発酵するかしないかに違いがある。パン生地はふっくらさせるために2次発酵までおこなうが、ピザ生地は発酵なしか1次発酵までである。


「さすがにチーズはオブリさん達の作ったもののほうがおいしいと思うけれど、いろんなものを乗せて焼いてみたから楽しんでくれ」


 ピザはパンに比べて薄いから焦げやすいが、火加減さえ気を付ければフランスパンほど難しいものではないようだ。今回は初めて作った割にはうまくできたと思う。


「あふあふ……おお、これはうまいっす!」


「おお、こいつはうまいわい! パンの上に溶けたチーズが酸味のある赤いソースと絡み合って一体化しておる!」


 アーロさんが食べているのはマルゲリータだ。トマトソースとモッツァレラチーズとバジルのシンプルなピザだが、焼き立てのピザはそれだけでも十分にうまい。赤と白と緑色がピザ発祥のイタリアの国旗の色になっていることも有名だな。


「こっちのお肉の乗ったピザもおいしいです! 塩味の強いお肉とトマトソースがとっても合いますね!」


 サリアが食べているのは生ハムのパルマピザだ。生ハムだけでなく燻製肉も乗っけているから厳密にはパルマピザではないかもしれないけど。


 たとえピザであろうとも肉は正義である。


「ホクホクとした芋が上にかかっているマヨネーズと香辛料と絶妙にあいます。いや、これはおいしいです!」


 アルジャが食べているのはポテトと玉ねぎ、ベーコン、チーズを乗せて、マヨネーズと黒コショウをたっぷりとかけたピザだ。マヨネーズベースのピザも個人的には結構好きなんだよね。


「どれもとてもおいしいですね。これは目移りしてしまいます」


「うむ、初めて食べる料理だが、こいつは昨日のパンと同じくらいうまいわい」


 どうやらソニアもダルガも満足してくれているようだ。ピザは初めて作ったが、こちらのほうは上出来なようだ。


「ユウスケ殿、このピザという料理や昨日のパンはこのキャンプ場では出さんのか?」


「さすがに手間がかかりすぎるから無理だな。パン窯に火を入れるだけでも時間と手間がかかりすぎる」


 本当はパンやピザも毎日焼き立てのものを提供したいところではあるが、パン窯に火を入れるだけでも1時間はかかる。サリアの魔法を使っても30分近くはかかるから、さすがに販売は難しい。


「ううむ……残念であるな」


「いつも通りレシピは教えるから、自分達で挑戦してみてもいいと思うぞ」


「ユウスケさん、あとで教えてほしいっす!」


「ああ、もちろん。今度このパン窯で作れるレシピ集でもまとめておくかな」


 最近ではお弟子さん達が料理にハマったらしく、キャンプ場でいろんな料理を作っている。


 パンは発酵時間を含めると結構な時間が必要だが、毎週数日間泊まるなら大丈夫だろう。ピザのほうは発酵させなくてもいいしな。あとはお客さん同士で窯を使用する順番とかも考えておくとするか。

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