第201話 いろいろなパン


「よしよし、こっちのほうもうまく焼けているな」


 一口にパンと言ってもいろいろなパンがある。一番最初に焼いたパンは生地を丸くして焼いた丸パンだ。他にも形を変えて作ったコッペパンと箱型の容器に入れて焼いた食パンのほうもうまく焼けていた。


「……こっちのほうは失敗ですかね」


「ありゃ。確かに全然ふわふわになっていないし、外側もパリッとしていないな。やっぱりフランスパンは難しいのか」


 イドの言う通り、他のパンはうまくいったのだが、残念ながらこっちのフランスパンは失敗してしまったようだ。パンのレシピ本によると、そもそもフランスパンはパンの中でも作るのが難しい部類に入るようだ。


 材料自体は小麦粉、塩、水、酵母だけなのだが、普通のパンよりもパン生地の水分が多く、発酵時間や生地のこね方もシビアで長年の経験が必要になるらしい。


 詳しくは某パン漫画を呼んでくれればよくわかるぞ。


「やっぱり生地のこね方ですかね。本には混ぜすぎないようにとありましたけれど、生地がベタベタしていて難しかったです」


「あとは材料の問題があるかもな。ストアで買った小麦粉は他のパンには適しているけれど、フランスパンにはそこまで適しているわけじゃないらしいからね」


 ストアで購入した小麦粉は強力粉だが、フランスパンに適しているのは準強力粉という小麦粉らしい。これはストアでは購入できなかったので、今度は異世界の小麦粉で試してみるとするかな。


「まあフランスパンのほうはいろいろと試していくとしよう。最初っから全部うまくいくわけはないから、失敗を重ねて少しずつ完成に近付けていこう」


「でもパンを作るのって本当に面白いですよね」


「そうだな。他にもいろんなパンのレシピがあるからいろいろと試していこうな」


「はい!」


 イドはだいぶ料理が上手になっているし、呑み込みがとても早い。フランスパンを焼くのは難しいのかもしれないが、何度か経験すればそこそこのものを作ってくれるだろう。


 ちなみにパン窯がなくてもキャンプ場でパンを焼くことは可能だぞ。パン生地を事前に作っておいてキャンプ場に持っていき、スキレットやダッチオーブンなどでパンを焼くことができる。


 最近では生地を作る手順すら省略して、キャンプ用の冷凍のパン生地なんかも販売しているから驚きだな。




「ほお、こりゃいろんな種類があるのう!」


「とてもいい匂いっす!」


「おいしそうだニャ!」


「焼きたてのパンにいろいろ挟んでみたんだ。パンが熱いうちに食べちゃおう」


 コッペパンと食パンを切って、中にいろいろ挟んでみた。普通のホットドックやサンドイッチと違ってパンが焼きたてのアツアツだから、中に挟むものもそれに合わせ作ってある。


「おお、こりゃうまい! 中には腸詰と野菜が入っておる。アツアツの柔らかいパンに腸詰と野菜、それにかかっておるこの甘酸っぱい赤いソースが合わさって最高だぞ!」


 セオドさんが食べているのはホットドッグだ。コッペパンに野菜とパリッと焼いたソーセージを挟んでケチャップをかけたシンプルなものだが、焼き立てのパンと合わさると最高にうまいんだよな。


 ちなみにキャンプでも簡単にアツアツのホットドッグを作ることもできる。スーパーなどで買ってきたコッペパンに具材を入れてアルミホイルを巻き、空になった牛乳パックの中に入れてから牛乳パックに火を付けると、ちょうどいい感じに少し焼けたホットドッグが出来上がるというわけだ。


 カートンドッグと言って、火を起こす必要もないので、お手軽に楽しめるぞ。キャンプと言えばこのホットドッグが一番定番かもしれない。


「こっちのパンには揚げたカツが入っているな。ソースがパンに染み込んでいてとてもうまい」


 ウドが食べているのはカツサンドだ。食パンを切ってキャベツを挟み、ソニアの収納魔法で保存していた揚げたてのカツを挟んでから、たっぷりのソースをかけた。


 揚げ物の油と野菜とたっぷりかけたソースが焼き立ての温かいパンにとてもよく合う。カツサンドのソースはたっぷり目が正義である。異論は認めないぞ。


「こっちのパンにはいろんな具材が入っているっす! 焼き立てのパンはこんなにうまいとは思わなかったっす!」


 お弟子さんが食べているのはサンドイッチの王道のハム、チーズ、レタス、ゆで卵を入れたサンドイッチだ。ただのサンドイッチだが、焼き立てのパンにはさむと、これまたひと味違うのである。


「これはいいものを作ってもらったよ。あの立派な馬車と一緒に大切に使わせてもらうからな」


「おう。気に入ってもらえたなら何よりだ」


「ワシらも面白いものを作らせてもらって楽しかったぞ」


「うむ。それにこんなにうまいパンを食べさせてもらえて満足じゃわい」


 アリエスの厩舎と馬車にパン窯にアルジャの短剣。大親方達にはまたとてもお世話になってしまったな。


「さて、パン以外にも何か作るとするか。いつもの店で出ているやつでもいいし、リクエストがあれば聞くぞ。今日は酒も飲んでいいけれどほどほどにな」


「おお、そりゃありがたいわい!」


「そいつは嬉しいのう! いつものビールとから揚げと」


「やったっす! ビールをお願いするっす!」


 今日はお世話になったドワーフのみんなに御馳走するとしよう。キャンプ場の従業員もたまには息抜きしてもらわないとな。


 明日もキャンプ場は休みだし、のんびりとまたなにか焼いてみるとしよう。

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