第200話 焼き立てのパン
「……よし、こんなもんだろう」
「相変わらずあっという間に完成したな」
無事に街からキャンプ場まで帰ってきて、ドワーフの大親方達に管理棟の横にパン窯を組み立ててもらった。
相変わらずダルガ達やお弟子さん達の作業スピードはとても早く、1時間もかからずに大きなパン窯を組み立ててしまった。
レンガ造りの2m近くある大きなパン窯で、2段重ねになっているため、一度にたくさんのパンやピザを焼くことができる立派なパン窯である。これは今から焼きあがるパンやピザが楽しみでしょうがないな。
「それじゃあワシも管理棟と温泉のメンテナンス作業を手伝ってくるとするかな」
「ああ、頼むよ。こっちはその間に早速パンを焼いてみるからな」
「おう、楽しみにしておるぞ」
「まあ初めてだから、そこまで期待はするなよ」
無事にパン窯が完成し、ダルガとお弟子さん達はキャンプ場の管理棟と温泉のメンテナンスをしているアーロさんとセオドさんの手伝いにいってくれた。
その間に俺達は完成したパン窯で初めてのパン作りだ。
まだパン窯を作るときに使用した粘土などが乾いていないのに大丈夫かとも思っていたのだが、ダルガ達に話を聞くと、むしろ火をいれたほうがいい素材らしい。
「サリア、よろしく頼むよ」
「はい、ユウスケさん。えい!」
サリアが両手を前に出して火魔法を使うと、パン窯の中に火が出現した。
このキャンプ場に来たばかりのサリアではお風呂のお湯を沸かすくらいの火しか出せなかったが、今では攻撃魔法も使えるようになったし、魔法の力もだいぶ上がっているらしい。
「それじゃあしばらくの間頼むな。無理そうになったら薪を入れるから言ってくれ」
「わかりました。これも魔法の練習になりそうでいいかもしれません」
「なるほど。それにしても火魔法を使えるサリアがいてくれて本当に助かったよ」
「は、はい! 頑張りますね!」
本来パン窯を使う時は薪で火を起こしてから1時間ほど加熱する。そしてパン窯全体が高温になってから、薪を取り除いてそのパン窯の余熱を利用してパンを焼くのだ。
しかしこの世界には魔法が存在する。エルフ村のみんなからパンの焼き方について話を聞くと、薪を使わずに火魔法を使ってパン窯を加熱していたらしい。
火魔法を使えば燃料の薪は不要となり、薪で加熱する半分以下の時間でパン窯を熱することができるようだ。
「それじゃあ、ウドとイドはパンを焼く準備を手伝ってくれ」
「ああ」
「はい!」
パン窯で焼く用のパンの生地はすでに準備してあるからそれを持ってくるとしよう。昨日はみんなで今日焼くためのパンの生地をこねた。
パンを石窯で焼くのは初めてだが、一応本を読んで勉強しておいた。パン生地もいくつかの種類を準備してある。
材料もこちらの世界の小麦粉とストアで購入した小麦粉があるので、いろいろと味を比べてみるとしよう。
「さて、見た目はうまく焼けているように見えるな」
キャンプ場のパン窯で焼いたパン第一号が完成した。初めてなので、シンプルな丸いパンである。見た目は焦げひとつなく、なんの変哲もない普通のパンに見える。
管理棟と温泉のメンテナンスも無事に終わったので、大親方達やお弟子さん達や従業員のみんなもパン窯の前に集まっている。
「それではユウスケ、毒見をお願いします」
「……ナチュラルに毒見をさせようとするなよ。一応俺は護衛対象なんだからな」
ソニアが焼きあがったパンをしれっと俺へ最初に食べさせようとしてくる。
おかしい、ソニアには毎日の食事を用意する条件で護衛をしてもらっているはずなんだけど……
「ユウスケさん、私が食べてみましょうか?」
「いや、大丈夫だから! 変なものが入っているわけでもないから俺が食べるよ!」
サリアが気を使ってくれているが、さすがにサリアに毒見を任せるわけにはいかん。というより、別におかしなものが入っているわけでもないし、そもそも毒見は必要ない。
「あちち……」
まだアツアツの丸いパンを半分に割ると、中からは真っ白で綺麗な中身が現れ、とてもかぐわしい焼きたてのパンの香りが食欲を刺激する。そういえば本当に焼きたてのパンを食べるのはこれが初めてだ。
「うおっ! うまっ!!」
パリッと焼けたパンの皮の中には、ふっくらと柔らかくもっちりとした食感に小麦粉の香りが口の中に広がっていく。
すごいな、焼きたてのパンというものはこんなにも普通のパンと味が異なるのか!
初めてパンを焼いたのにこの味は結構すごいんじゃないのか? あるいはこのパン窯が本当にすごいのかもしれない。
「うん、十分うまいよ。みんなも食べてみてくれ」
「うまそうな香りじゃな、こりゃうまそうだ!」
「ええ、この焼きたてのパンの香り。これは本当においしそうです!」
焼き上がりも問題なかったため、皿にとってみんなにまわす。確かにこの焼きたてのパンの香りはとんでもない威力だ。
「おお、こりゃうまいわい!」
「うわあ、柔らかくって、いい香りがして本当においしいです!」
「街で売っているパンよりもうまいっす!」
「ブルルル!」
どうやらみんな気に入ってくれているようだ。最初は間違いのないようにレシピで読んだ元の世界の材料通りで作ったからな。
お次は他のパンやひと手間加えたパンも試してみるとしよう。
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