第199話 馬車に揺られて


「よし、これで調整は完了だな」


「本当にありがとうございました。この短刀に恥じぬよう努力します」


「アルジャのほうも短刀の調整は終わった感じかな?」


 馬車の説明をダルガから受けたあと、アリエスのほうの馬車への金具の調整も終わったようなので、アルジャがいるほうに戻ってきた。ちょうどアルジャのほうも短刀の調整が終わったらしい。


「はい。これほど素晴らしい短刀を鍛えてくれたセオドさんには感謝しています。もちろんその費用を出してくださったユウスケさん達にも本当に感謝しています」


「アルジャが強力な武器を持つことで、街とキャンプ場への往復が安全になるんだから安いものだよ。まあ、あの馬車に乗っている限り、まともな戦闘になるとは思えないけれどな……」


「こちらが馬車ですか。思ったよりも大きいのですね。それにしてもまともな戦闘とは?」


「アルジャにも後で説明するよ」


 馬車の説明は俺とソニアが受けたから、あとでみんなにも共有するとしよう。馬車の魔道具はキャンプ場の従業員だけで共有するつもりだ。


 下手にこの馬車の性能が知られてしまったら、この馬車自体を狙ってくるやつがいてもおかしくないからな。


「それじゃあ買い物も終わっているし、キャンプ場に帰ろうか」


 ここへ来る前に市場での食材の買い物は終わっており、すでに荷物は馬車の中に入れてある。


 代金もすでにみんなに支払った。いつの間にか設置されていた魔道具についてはオブリさんに支払う予定だ。オブリさんは受取ってくれなそうだけれど、少なくとも材料費だけは受取ってほしいところである。


「うむ、それではワシらも一緒に行くとするか。パン窯を作る材料も準備はできているから、あとはキャンプ場で組み立てるだけだからな」


「そうするとしよう。それと客がいない間に管理棟や温泉施設のメンテナンスをしておくとしよう」


「ああ、助かるよ」


 大親方達もこのまま俺達と一緒にキャンプ場まで来てくれるようだ。


 キャンプ場が休みの日の間にパン窯を作ってくれたり、施設のメンテナンスをしてくれるのはとても助かる。作業が終わったら、キャンプ場は休日だけれど、うまい酒やご飯を提供してあげよう。


 たぶん大親方達もそれを期待しているのかもしれない。実は昨日のうちにこっそりパン生地を準備していたから、パン窯ができたら焼きたてのパンを振る舞うとしよう。






 早速完成した馬車に乗って街を出発した。後ろにはドワーフのみんなの馬車もついてきている。


 普段は運動のために歩いてキャンプ場まで来ている大親方達だが、俺達が馬車に乗っており、パン窯の材料も運ばなくてはならないので、今日は馬車に乗っている。


「アリエス、大丈夫か。重かったり疲れたりしたら教えてくれよ」


「ブルルル!」


「全然余裕だって言っているニャ!」


 馬車には俺を含めた4人と来週の分の食材、パン窯を作るための材料を載せているが、アリエスは難なく荷馬車を引いている。


 とはいえキャンプ場までの道のりはまだまだ長いからな。アリエスが疲れたら少し休憩するとしよう。


「それにしてもこの馬車はすごいですね。先ほど内装を見ましたが、とても素晴らしかったです。そして何より馬車なのにほとんど揺れませんし、この椅子も柔らかくて少しも身体が痛くなりません」


「ああ、さすがダルガ達だよな。本当に普通の馬車よりもだいぶ揺れが少なくなっているぞ」


 もちろん御者の席の椅子もフカフカのクッションを使用している。


 実際に馬車に乗って道を走ると、このサスペンションのすごさがよくわかる。道は舗装されておらずデコボコで木の枝や小石などがあるにもかかわらず、衝撃はほとんどと言っていいほど伝わってこない。


「これは素晴らしいですね。ここまで快適な馬車は初めてかもしれません」


「フカフカで気持ちいいニャ!」


 ソニアとアルエちゃんもこの馬車に満足しているようだ。アルエちゃんに至ってはソファで横に寝転んでいる。確かにこの程度の揺れなら、馬車の中でもぐっすりと眠れそうかもな。


「アリエス、もう少しゆっくりでいいですよ。あまり急ぎすぎても疲れてしまいますからね。それに今日は後ろにドワーフの皆さんがいるので、ペースを落としましょう」


「ブルル」


 本来ならば手綱にて御者の意図を伝えるわけだが、アリエスの場合には直接言葉でこちらの意図を伝えることができる。


 これならアリエスも馬車を引く訓練もいらないし、御者の経験のない俺や他のみんなでもアリエスに頼んで馬車を引いてもらうことができる。


 とはいえお客さんを運んでもらう時には盗賊や魔物による襲撃があるかもしれないので、アルジャかソニアにしかできない。


 ……ぶっちゃけダルガ達が馬車に取り付けてくれた魔道具があれば俺でもなんとかできそうな気もするが、あれはできる限り使わないようにしておこう。




 アリエスは一度も休憩を取ることなくキャンプ場まで到着した。今回に関しては盗賊や魔物に襲われてみたかったまであったが、特に問題なくキャンプ場へとたどり着いた。


 普段キャンプ場から街までの道のりは歩いて2時間近くかかるが、アリエスの馬車だと1時間もかからずに到着した。今後はアリエスのおかげで街までの買い出しも楽になりそうである。

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