第203話 馬車の運用


「さて、そろそろ帰ってくるころかな」


 今週のキャンプ場の営業が始まって、今はイドと一緒に厨房で料理を作っている最中だ。


 今日は初めてアリエスが街まで馬車を引いてお客さんを連れてくることになっている。


「楽しみですね、ユウスケさん」


「さすがに一昨日から通知を始めたばかりだから、下手したらひとりも乗ってないかもしれないな。まあキャンプ場の管理棟のところにも通知を出しておいたし、少しずつお客さんが増えることに期待しよう」


「はい!」


 今回が初めてということもあって、今日はアルジャと一緒にアリエスの言葉が分かるアルエちゃんも馬車に乗っている。


 大親方達が作ってくれて、オブリさんの魔道具を搭載したあれほどの馬車だから、アルジャ達や乗客の心配はまったくしていない。とはいえお客さん達の反応は気になるところである。


「ユウスケさん、ドワーフのみなさんにガーリックトーストとピンチョスを追加でお願いします」


「はいよ~。しかし朝からよく食べるな。ちゃんと今日来る人の分にも試してもらいたいんだけど」


 焼き立てのパンを使った料理はソニアの収納魔法に入れてもらっており、それほどの量があるわけではないので、量に限りがある。人気が出そうなら週の半ばくらいにもう1日くらいパンを焼く日を作ってもいいかもしれないな。


「ふふっ、みなさん気に入ってくれたみたいですね。ボクも早くお酒が飲めるようになりたいです」


「……まあ、お酒もいいところばかりじゃないからな。新しい料理を作る時はイドがいてくれて本当に助かるよ」


 結局昨日も大親方達はキャンプ場に泊まっていったため、今日は朝から大親方達がいる。できたばかりのパン窯を使って焼いたパンで作ったガーリックトーストとピンチョスをつまみに朝から酒を飲んでいる。


 ガーリックトーストの作り方は非常にシンプルだ。バターとオリーブオイル、ニンニク、塩、パセリを混ぜたものをパンに塗って、パン窯で少し焼くだけで完成だ。シンプルな分、焼き立てのパンと合わせると非常においしく、ワインとかにも合うんだよな。


 本当は普通の食パンよりも外がパリパリとしたフランスパンのほうがあうのだが、食パンでも十分においしい。


 ピンチョスとはスペイン語で串を意味する酒のつまみのようなものだ。切ったパンの上にチーズや生ハムなどを乗せて串を刺した一口サイズの料理である。手を汚さずに食べることができるので、将棋や囲碁を打ちながら楽しむことも可能だ。


 生の野菜やチーズなんかもおいしいんだけど、焼いたナスやズッキーニにベーコンを挟んだやつなんかもお酒が進むんだよな。昨日はイドやサリアと一緒にいろんなピンチョスを試してみたりした。


「ユウスケ、馬車が戻ってきましたよ」


「ありがとう、ソニア。今行く!」


 


「アリエス、アルジャ、アルエちゃん、ご苦労さま。馬車に問題はなさそうだった?」


「ブルルル!」


「はい、まったく問題なかったです」


「大丈夫だったニャ!」


 どうやら初めての馬車の稼働は問題なかったらしい。あとは夕方前くらいに今度はキャンプ場から街までお客さんを送ってもらう。


 基本的には毎日朝にキャンプ場から街まで移動して前日にキャンプ場で泊まったお客さんを街に運び、街からキャンプ場に来たいお客さんをキャンプ場に運んでくる。ちょうど忙しくなる昼前の時間帯にはキャンプ場に帰ってくる想定だ。


 そして14時ごろに昼食だけ食べに来てくれたり、温泉を楽しんでくれたお客さんを街まで運び、夕方から泊まりたいお客さんを乗せて晩ご飯の忙しい時間帯の前に帰ってくる。


 これなら日帰りのお客さんやキャンプ場までの道のりが大変な子供や女性のお客さんにも、より楽にキャンプ場を楽しんでもらうことができるだろう。


「やあ、ユウスケくん。久しぶりだね!」


「ユウスケさん、ご無沙汰しております」


「ジルベールさん、ザールさん、いらっしゃいませ!」


 戻ってきた馬車には商業ギルドマスターであるジルベールさんと、職員のザールさんが乗っていた。他にも2組ほどのお客さんが馬車に乗ってキャンプ場に来てくれたみたいだ。


「商業ギルドに貼ってあった通知を見たんだよ。普通の馬車じゃなくてアウルクの馬車なんて珍しいよね!」


「最初は馬を買うつもりだったんですけれど、たまたまこのアウルクと出会ったんですよ。特にアルエちゃんに懐いているみたいなんで、このキャンプ場で一緒に働いてもらうことになったんです」


「ブルル」


「ずいぶんと人懐っこいアウルクですね。こうしてみると魔物とは思えないくらい可愛いですよ」


「普通のアウルクよりも人懐っこくて賢いんですよ。名前はアリエスって言います」


「へえ~よろしくね、アリエス」


「よろしくお願いしますね、アリエスさん」


「ブルルル」


 ジルベールさんはハーフリングという種族で、普通の人族よりも背が低い。馬よりも少し身体の大きなアリエスと並んでみるとその差がすごい。アリエスがより大きく見え、ジルベールさんがより小さく見えてしまうな。

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