第195話 アリエスはアリエス


「んん? 今変異種とか言ったか?」


「……うむ。どうやらこやつは変異種で間違いないようじゃ」


「いやいやいや! 変異種って前回の馬鹿でかいイノシシみたいなやつだろ?」


「別に変異種だから大きいというわけではないぞ。妾が見たことのある変異種は普通のサイズよりも少し大きいくらいじゃったな」


「ブルルル?」


 変異種ってなにそれ、みたいな感じで首をかしげるアリエス。本人は変異種というもの自体が分かってなさそうである。


「ちょっとオブリさんとソニアを連れてくるから待っていてくれ!」


 もしかしたらあの2人なら詳しいことが分かるかもしれない。




「……ふ~む、確かに普通の魔物とは体内の魔力がほんの少し異なるのう。おそらくサンドラ殿の言う通り、アリエスは変異種で間違いないようじゃな」


「そうですか……」


 オブリさんに来てもらって、アリエスを調べてみてもらったところ、オブリさんもアリエスが変異種であるという判断を下した。


「しかしサンドラ殿はよくわかったのう。確かにアリエスの魔力はほんの少しだけ他の魔物と異なるようじゃが、詳しく調べてみなければワシにはまったく分からんかったわい」


「そういえばよく分かったな、すごいぞサンドラ!」


「なあに、妾ならそんなことはすぐに分かるのじゃ! 明らかに他の魔物と魔力の流れが異なっていたぞ!」


 そう言いつつも胸を張って得意気にドヤ顔をしているサンドラ。どうやらこの古代竜さんは褒められて嬉しいようだ。


 それにしても魔法に詳しいオブリさんでも気が付けなかったのに、一目見てそれを見破るとはな。サンドラはただの食いしん坊の古代竜ではなかったらしい。


「……アリエスが変異種であるならば、魔物避けの魔道具の効果がなかったり、我々の言葉を理解していることに説明がつきますね」


「……確かにな」


 こっそりとソニアが耳打ちをする。確かにアリエスが変異種であるというのなら、いろいろと説明がつくことがある。


 あのイノシシ型の変異種には魔物避けの魔道具の効果がなかったし、ものすごく巨大であった。変異種の魔物は特別な能力を持っていたり、特別知能が高かったりすると聞いていた。


「それで、こやつはどうするのじゃ? 変異種は普通の魔物よりうまいことが多いのじゃが、この魔物自体がまずいからどんな味がするか分からんぞ」


「ブルルル!?」


「いや、食べないから! アリエス、大丈夫だからちょっと向こうに行ってなさい」


「ブルルル!」


 俺がそういうとアリエスはサンドラから逃げ出すように管理棟のほうへ走っていった。


 さすがにアリエスがどんなにうまかったとしても食べる気なんてないぞ!


「サンドラ、アリエスはこのキャンプ場で一緒に働いてもらうことになったんだから、そういうことはもう言うなよ。次にそんなことを言ったりしたら、いつもの週末のお土産はなしにするぞ」


「わ、悪かった! もう言わないのじゃ!」


 サンドラにもそれほど悪気はないのだろう。この異世界の生存競争を生き抜いてきたのなら、弱肉強食の精神が基本だろうからな。


 とはいえうちの従業員をそんな目で見られても困る。


「……ちなみにアリエスが変異種だったとしても、特に問題はないよな?」


「どうやら彼女は人に害を与える気もないみたいですし、何かあってもユウスケの結界があるので問題はないと思います」


「昔変異種を手懐けてその能力を利用していた国もあったことであるし、害を与えることがないなら大丈夫だとは思うぞ」


「へえ〜そんな国もあったんですね」


「残念ながら最終的には変異種の素材と魔石が必要になり殺されてしまったようだがのう」


「………………」


 そういえば変異種の素材や魔石は高く売れるんだったっけ……


 確かにあのイノシシ型の魔物の素材は結構なお金になった。だが元々価値がないと言われているアウルクの素材が変異種化したらどうなるんだろうな。いや、たとえお金になったとしても、アリエスを売り払ったりは絶対にしないけど。


「たとえアリエスが変異種であっても問題ないだろ。とはいえ、オブリさんとサンドラはアリエスが変異種であることを秘密にしておいてくれ」


「うむ、承知したぞ」


「わかったのじゃ!」


 アリエスが変異種であったとしても特に問題はなさそうだ。むしろアリエスが変異種であることがバレると、変異種の素材を目的とするやつらが現れてもおかしくはない。


 オブリさんみたいな熟練の魔法使いでもじっくり調べないとわからないから、普通の人にはバレないと思うが、注意はしておくことにしよう。




「……というわけでアリエスは変異種だったらしいけど、気にしないことにしよう」


「ブルルル?」


 本日の営業も無事に終了した。


 とりあえず従業員にはアリエスが変異種であることは伝えておこうとソニアと相談して決めた。言わなくてもいいことかもしれないが、あまり従業員に隠し事をするものでもないからな。


「驚きましたね。まさかあの巨大なイノシシと同じ変異種だったとは……」


「あの巨大な変異種とは全然違うな」


 アルジャやウドの気持ちも分かる。俺もあの巨大でヤバかった変異種とアリエスが同じ変異種だとは到底思えなかった。


「アリエスはアリエスニャ!」


「ブルルル!」


 うん、アルエちゃんの言う通り、アリエスはアリエスだな。


 さっき確認したところ、アリエスは引き続きこのキャンプ場で働いてくれることになった。たとえ変異種であったとしても、人を害する気はないようだし、新しい従業員として歓迎することに決まった。

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