第194話 新しい発見


「あら、今週から新しいメニューがあるのですね?」


 エリザさんから王子様の来訪情報を一通り教えてもらったあと、いつも通りキャンプ場での食事やワインや少女コミックを楽しんでいる。


「はい、今週からお試しで新しいデザートを追加してみました。よろしければいかがですか?」

 

「……例のケーキはないのですね」


「あの時はちょっと特別でしたからね。さすがにあれは材料費も手間もかかりますから、常にうちで提供するのは難しいです。今回はフルーツを使って簡単にできるデザートを作ってみました」


 一度こちらの世界にある食材を使ってケーキを作ってみたことがある。一応そこそこのものは出来上がったのだが、かなり材料費や時間がかかるので提供するのは難しいという結論に至った。


 そもそもキャンプ場だとケーキよりもフルーツを使ったほうが似合っているからな。


 自分で焼き加減を調整できたりもできるし、自分達でデザートを作るのは楽しかったりもする。こちらで材料だけ渡して、自分達で作れるようにもしている。


「いえ、もちろんわかっておりますよ。こちらのフルーツのデザートもとてもおいしそうですね」


 と言いつつガッカリしているのは目に見えて分かった。エリザさんだけではなく、ベレーさん達までガッカリしている。


「……まあ今度から月に一度くらいは少しですがケーキを販売しようと思っているので、もうしばらくお待ちください」


 さすがに変異種討伐の祝勝会みたいに無制限にケーキやお酒を販売する気はないが、ひとりあたり数個程度なら月一くらいで提供してもいいかなと思っている。


「本当ですか!!」


「え、ええ。まあまだ確定ではないですが、その場合はあらかじめお伝えしますね」


「はい、ぜひよろしくお願いします!」


 ……ものすごい食いつき方だな。あとエリザさんが興奮すると、その大きな胸を強調するドレスが激しく揺れるので、少し目に毒である。


 あの時は色とりどりの美しいケーキを何種類も出してしまったから、甘いものが好きな女性陣がこうなってしまうのも無理はないか……今度はもう少し自重するとしよう。


 それとは別にエリザさん達は新しいフルーツを使ったデザートにも満足してくれたようでなによりだ。






◆  ◇  ◆


 今週も無事に4日が過ぎて今日は週末だ。アリエスも大きな問題を起こすことなく、俺達の仕事を手伝ってくれている。


 こちらとしてはアリエスにこのままキャンプ場へ残ってほしいが、そこは本人の意思次第なので、今日の仕事が終わったらアリエスに聞いてみるとしよう。


「……ふ~む、やはり故障はしてなさそうじゃのう」


「そうですか、それならよかったです。ありがとうございます、オブリさん」


 今日はオブリさん達エルフ村のみんなが来てくれている。まあ今週の休日にエルフ村へお邪魔したので、久しぶりという感覚はないがな。


「そうなると、なんでアリエスに魔物避けの魔道具の効果がないのかよく分からないんだよなあ」


 オブリさんにお願いをして、キャンプ場の周辺にある魔物避けの魔道具に異常がないのかを調べてもらっている。


「まあ害はないようですし、そのままにしておいても問題はなさそうですね」


「……まあ、そうだな」


 ソニアの言う通り、今のところは問題ないが、アリエスには何かあったらすぐにアルエちゃんに言うように伝えておくとするか。


 オブリさんにはアリエスとはエルフ村の帰り道で出会って、懐かれてキャンプ場までついてきたので、キャンプ場で一緒に働く仲間として迎えたと伝えてある。


「なるほどのう。魔道具の効果がない魔物……興味があるのう。ユウスケ殿の結界の能力は効果があったんじゃな?」


「ええ、そちらは試してみましたけれど、結界の能力は問題なく発動しましたね。ただ、俺の結界は魔法とは違うのでなんともいえませんけれど……」


 あとはアリエスに魔道具ではなく魔法が効かない可能性もあるが、それを確認するためにはアリエスに向けて魔法を撃たなければならない。


 ほとんど害の与えられない魔法を試してみるという手もあるが、そこまでする必要もないと思ったし、アリエスを実験道具にするのも嫌だったからな。


 魔道具が正常に動いており、魔物避けの魔道具がアリエスに悪影響を与えないならそれで良しとしよう。




「ユウスケ、久しぶりじゃな!」


「ああ。サンドラ、いらっしゃい」


 今日は週末なのでサンドラもキャンプ場にやってきている。先週末も来ていたから全然久しぶりという感じはしないんだけどな。まあこの古代竜さんは寂しがり屋さんだから、1週間でも長いのかもしれない。


「相変わらずよく食うよな……」


「ここで出てくる料理は本当にうまいからのう。いつも作ってもらっている料理にも感謝しておるのじゃ!」


 サンドラには週末にキャンプ場で余った食材を使って、いろいろな料理をお土産に持たしてあげている。キャンプ場としても賞味期限の近い食材を使えるし、サンドラとしてもたくさんの料理を持って帰ることができるので、WIN-WINな関係である。


 まあ山のような料理を収納できるサンドラだからこそできる話ではあるがな。


「ブルルル」


「ぬ? なんでここに魔物がおるのじゃ?」


「ああ、アウルクという魔物で名前はアリエスだ。このキャンプ場で働いてくれることになったんだ。……頼むからアリエスを食おうとしてくれるなよ」


 アリエスにはサンドラが注文したたくさんの料理を運ぶのを手伝ってもらっている。いくら結界があるとはいえ、注意はしておかないとな。


「その魔物が食えないことは知っておる。かなり昔にその魔物を一飲みしたら、吐いたうえに腹を壊したのじゃ……頼まれても食ったりはしないぞ!」


「あっ、そうなんだ……」


「ブルルル……」


 どうやらアウルクが食べられないことをその身をもって知っているらしい。アリエスも少しサンドラから距離を取っている。


「それじゃあ、ごゆっくりどうぞ」


「………………ううむ」


 料理を置いてアリエスと一緒に管理棟へ戻ろうとすると、なぜかサンドラがアリエスをじっと見ている。


「アリエスがどうかしたのか?」


「ユウスケ、ちょっとこのアウルクに触れてもいいかのう?」


「えっ、まあ触れるくらいなら……」

 

「ブルル?」


 サンドラの意図がまったく分からない。どうやら危害を加えるようとしているわけではなさそうだけど……


 サンドラはアリエスの胴体に右手をかざして、目を瞑って何かを感じ取ろうとしている。


「……やはりそうじゃな。ユウスケ、このアリエスとかいう魔物はじゃぞ」

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