第188話 群れを追い出された魔物
「ブルルル!」
「とってもおいしかった、ありがとう! って言っているニャ!」
「ありがとう、アルエちゃん」
結局このアウルクは収納魔法から取り出したホットサンドを全部食べてしまった。結構な量があったのだが、よっぽどお腹が空いていたのだろう。単純にアウルクの身体が大きいから、これくらいの量で1食分くらいなのかもしれない。
「そういえばアウルクって1匹で行動するものなの?」
「いえ、基本的には群れで行動するものだと思います」
「そうですね。アウルクが単体で行動することはあまり見たことがありません」
アルジャとソニアが教えてくれる。やっぱり、ものすごく強い肉食獣でもない魔物が、こんな森の中を1匹でさまよっているのは少し違和感があった。
「ブルルル……」
「この子は群れから追い出されちゃったらしいニャ……」
「そうなのか……」
この世界の魔物社会でもそういうことはあるのか。群れから追放するのって親はいったいどういう気持ちなんだろうな……
「ユウスケお兄ちゃん、この子をキャンプ場まで連れて行ったらダメニャ?」
「う~ん、さっきそれも考えたんだけど、キャンプ場には魔物避けの魔道具があるから、それも難しいんだよなあ」
キャンプ場はともかく、キャンプ場から街への道までのお客さんの安全は確保しておきたい。少なくとも今のところ、キャンプ場までの道のりで俺達が魔物に襲われたことはないし、お客さんからもそういった報告は受けていない。
オブリさんからキャンプ場のオープン祝いにもらった魔道具は、しっかりとその効果を発揮しているらしい。
「当然エルフ村にも魔物避けの魔道具はあるだろうし……」
「このまま森の中で暮らすことが、この子にとって一番幸せなのかもしれませんね」
なまじ意思疎通ができて、群れから追い出されたと聞いてしまっただけに、このまま放りだすのは可哀そうに思えてしまう。とはいえキャンプ場に連れていくこともできないから難しいところである。
「せっかくだからもう少し食料を分けてあげようか。少し先に俺達の拠点があるんだけど、そこまで来ないか? 魔物避けの魔道具があって、君は入ることができないけれど、そこで待っていてくれれば水と食料をあげるよ」
「ブルルル!」
「一緒に行く、ありがとうって言っているニャ!」
どうやらついてきてくれるらしい。
「おおっ、結構怖いんだな……」
「ブルルル」
キャンプ場へ向かうまでの間、交代でアウルクの背に乗せてもらっている。このアウルクはとても人懐っこく、人が背に乗るのをまったく嫌がっていなかった。
「
アルジャの指導によってアウルクに乗っているが、毛並みはとても柔らかいため、とても乗りやすい。とはいえ元の世界で乗馬はしたことがないし、実際に乗ってみると、思ったよりも地面より高いので結構怖い。
このアウルクはこちらの言葉を分かってくれるからいいが、確かに意思疎通のできない馬などに一から乗馬や馬車を引くように教えるのは時間がかかりそうだ。
「ユウスケさん、僕も乗せてもらいたいです!」
「私もです!」
最初はアルジャに乗ってもらってから、順番にアウルクの背に乗せてもらっている。こんなことをすればなおのこと情が移ってしまうのだが、魔物の背に乗る機会なんて二度とないかもしれないからな。
「もう少しでキャンプ場だけどまだ大丈夫か?」
「ブルルル」
「大丈夫って言っているニャ」
この際なので、魔道具の効果についても検証させてもらうつもりだ。具体的な効果範囲がどれくらいなのか、実際にどれくらいの効果があるのかは魔物でないと分からないからな。範囲内に入ると嫌悪感を抱くレベルなのか、ダメージみたいなのを負うのかも知っておいて損はないだろう。
キャンプ場が近付いてきたが、まだ魔物避けの魔道具の効果範囲ではないようだ。アウルクにはこれから向かう先に魔物避けの魔道具があることを伝えてある。水や食料のお礼として、俺達に協力してくれるようだ。
意思疎通もできて、人間に協力的な魔物なんていろいろと悪用されてしまいそうだ。下手をすれば実験台として扱われてもおかしくない。街に案内して誰かに紹介することもできるが、やはりこの子にとっても森で暮らすのが良いのかもしれない。
「……もうだいぶキャンプ場に近付いたけれど、まだ大丈夫?」
「ブルルル」
「まだ何も感じないって言っているニャ」
もうそろそろキャンプ場が見えてきそうなほど近くまでやってきたのだが、まだアウルクは何も感じないらしい。思っていたよりも魔道具の効果範囲は狭いのかな……
「……キャンプ場に着いたけれど、まだ何も感じない?」
「ブルルル」
「他の場所と全然違わないって言っているニャ」
「………………」
どういうことだ? 魔物避けの魔道具がこのアウルクには効果がないのか? いや、実際に今まで他の魔物がキャンプ場や街までの道で現れたことはないから効果はあるはずだ。
考えられるとすれば、魔道具が最近故障したか、アウルクという魔物の種には効果がないか、あるいはこのアウルクにだけ効果がないのかだ。人の言葉を理解する特別なアウルクであることを考えると、最後の推測の可能性が一番高そうだ。
「……まあなんにせよ、イーストビレッジキャンプ場へようこそ」
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