第189話 アウルクの処遇
「よし、留守中に何か盗られたり、誰かがキャンプ場に入ったような痕跡はないみたいだな」
「ええ、漫画もすべて無事でしたね!」
「……ああ、うん。漫画も大事だよな」
とりあえずキャンプ場に帰ってきて、まずは誰もいなかったキャンプ場が問題ないかを全員で確認したが、何かを取られたり、誰かが侵入したような痕跡は見つからなかった。
一応結界の能力があるとはいえ、キャンプ場を誰もいない状態にしてみんなで出かけるということは初めてだったので、多少は心配していたが杞憂だったようだ。
「さて、問題はあのアウルクをどうするかだな」
とりあえずオブリさんからもらった魔物避けの魔道具の効果がなかったため、念のために俺の結界の能力がちゃんと効果があるのかを確認したところ、問題なく結界が発動してくれた。
どうやら魔道具や結界みたいな能力をすべて無効化するような力を持っているわけではないみたいだ。
そうなると、なぜ魔道具の効果がなかったのかは気になるところなので、今度オブリさんが来た時に確認してもらうとしよう。もしも魔道具が故障しているとかだったら、修理してもらわないとな。
「群れから追い出されて行く場所もないようですし、このキャンプ場で面倒を見てあげてはどうでしょう。ちょうど馬車用の馬を購入しようとしていたところですし、食事と屋根のある寝床を提供するのと引き換えに馬車を引いてもらえば良いのではないですか?」
今管理棟の食堂にはソニアとウド、アルジャ、俺がいる。他のみんなには管理棟の外でアウルクと遊んでもらっているところだ。
「そうですね。こちらの言葉が分かるのなら、馬車を引くこともすぐにできるようになるでしょう」
確かにアルジャのいう通り、こちらの言葉が分かるのなら、先ほど背中に乗せてもらった時と同じで、止まってくれとか左に行ってくれとかいうだけで済む。それにアルエちゃんがいれば、アウルクの言うことも分かるので、向こうからの要望を聞いたりすることもできる。
「でも本当に危険はないの? 結界の中ならともかく、あんなに大きなアウルクが暴れたりでもしたら結構大変だよ」
俺が一番気にしているのはその点についてだ。どんなに人懐っこくても魔物は魔物。あれだけの巨体だし、結界の外で暴れたりでもしたら、結構な惨事になるのではないだろうか?
「アウルクの身体は大きいですが、それほど戦闘能力があるというわけではありません。私やアルジャ、おそらくは力のあるウドや戦闘魔法が使えるようになったサリアでも対処は可能だと思います」
「あっ、そうなんだ」
かなりの巨体で角まである魔物だが、どうやらみんななら対処できるようだ。俺なら間違いなく逃げるけどな。
「……可能であればこのキャンプ場に置いてやってほしい。故郷もなく、行く当てもなく、孤独でいるということは本当に辛いことだ。俺もイドがいなくてひとりだったら、耐えられていたか自信がない」
「………………」
そうだな。経緯は違うが、故郷の村を失い、イドと一緒に兄妹で行く当てもなく様々な街を渡り歩いていたウドと境遇は似ているのかもしれない。亜人として厳しい扱いを受けてきたウドは、群れを追い出されたあのアウルクに同情しているのだろう。
「……ウドは大丈夫なの? 確か2人の村を襲ったのは魔物だったよね?」
ウドとイドの村を襲ったのは魔物の群れだったはずだ。それに2人の家族もその際に亡くなってしまったと聞いている。むしろあのアウルクをこのキャンプ場に置くことに一番反対するのはウドとイドだと思っていた。
「村を襲った魔物の群れは憎いが、そのこととあのアウルクには関係がない。それに俺達は狩りをして動物や魔物を食べるのが当然のように、村を襲った魔物の群れも食べるため、そして生きるために村を襲ったことだ。それは仕方のないことでもある」
「……ウド」
凶暴な魔物がいる世界だし、盗賊なんかもいるこの世界は弱肉強食の世界なのだろう。とはいえ、そう考えられるウドは本当にすごいと思う。
「よし、今外にいる3人にも聞いてみて、誰も反対する者がいないなら、あのアウルク本人にアルエちゃんを通して話をしてみるとしよう」
「……そんなわけで、もしも行く先がないなら、このキャンプ場で働いてみないか? 馬車という人を乗せる乗り物を引っ張る手伝いをしてくれるなら、こちらは寝床と食事を提供するぞ。とりあえずしばらくの間試してみるだけでもいい」
誰も反対する者はいなかったため、アウルクに直接話をしている。もちろんアウルクの意思が一番大事だ。自由を奪ってこちらの言いなりになんてする気も、捕まえて人の言葉を理解できる魔物として見世物小屋に売る気なんかもない。
そもそも俺自身が自由なスローライフを望んでいるんだからな。とりあえず試してみるだけでもいい。試用期間というわけだ。我がキャンプ場はホワイト企業を目指している。
たとえ魔物であったとしても従業員としてしっかりと扱うぞ。……給料については要相談だな。寝床と食事はともかく、魔物はお金なんて必要ないだろうし、何がほしいんだろう?
「ブルルル!」
「行く当てがないからとても助かる、頑張って働くって言っているニャ!」
アルエちゃんがアウルクに抱きつくと、アウルクもアルエちゃんの頬をペロペロとなめている。
今のはアルエちゃんの通訳がなくても、表情で言いたいことが分かった。とてもうれしそうな様子だ。もしかしたらこの子は群れを追い出されて一人きりになって、本当に寂しかったのかもしれない。
それに自分の言葉が理解できるアルエちゃんと一緒にいられることになってうれしいのだろう。とりあえず、仮にだがこのキャンプ場に新しい従業員(?)が加わることになった。
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