第187話 謎のアウルク


「ブルルル」


「ん? もしかしてお腹が空いているのか?」


 アウルクがエルフ村のお土産にもらったチーズや野菜などに興味を持っている。


「う~ん、可愛いからあげたいところなんだけど、野生の動物にエサをやるのはまずいからなあ」


 元の世界でもそうだが、野生動物にエサをやる行為は絶対にダメだ。人から食べ物をもらったことを覚えて、人里に下りて畑を荒らしたり、最悪の場合は人を襲って食べ物を奪うようになってしまう。この世界の魔物がどうなのかはわからないが、余計なリスクを冒さないほうがいい。


「そうですね。村長も野生の動物にエサを与えるのは、人を襲うようになるかもしれないからダメだって言っていました」


 どうやらそれはこちらの世界の魔物に対しても同じらしい。


「ごめんな。悪いけれどエサはあげられないんだよ」

 

「ブルル……」


 俺がそういうと悲しそうな顔をするアウルク。どうやら俺がエサをくれないことがわかってガッカリしているらしい。


「アウルクさんは絶対に人を襲わないから、なにか食べ物がほしいって言っているニャ!」


「……んん!?」


「……えっ!?」


 急にアルエちゃんが、まるでアウルクの言葉が分かるみたいなことを言い始めた。


「ア、アルエちゃん。もしかしてこのアウルクの話している言葉が分かるの?」


「ユウスケお兄ちゃんは分からないニャ?」


「えっと……俺にはブルルとしか聞こえなかったけど。アルジャは分かった?」


「い、いえ。私にもわかりませんでした。アルエ、本当にこのアウルクの言葉がわかるのかい?」


「お父さんも分からないニャ?」


 他のみんなの表情も見てみるが、やはりアルエちゃん以外の誰もこのアウルクの言葉は理解できていないようだ。なんでアルエちゃんにだけ? いや、もしかしたら何かの偶然でそういう風に聞こえただけかもしれない。


「アルエちゃん、もう一度アウルクが何を言っているか聞いてもらってもいい? もし会話ができるなら……そうだな、前の右足だけを上げてって伝えてもらえる?」


「ブルルル!」


「へっ……?」


 アルエちゃんがアウルクに何かを話す前に、アウルクが右前足だけを上げた。


「もしかして俺達の言葉も分かっている?」


「ブルルル!」




 そのあと、このアウルクにいろいろと話しかけて試してみたところ、どうやらこのアウルクは俺達の言葉を本当に理解しているようだった。そしてアウルクの言葉をアルエちゃんだけが理解しているということがはっきりした。


 異世界人の俺が神様にもらった異世界の言葉が分かる能力をもらった俺にも魔物の言葉までは分からないのに、なぜアルエちゃんだけがこのアウルクの言葉を理解できるのか本当に謎だ。


「……これはいったいどういうことなんだろう。普通の魔物って人の言葉を理解できるものなの?」


「いえ、魔物が共通語を理解するなど聞いたことがありません。サンドラさんのように永き時を生きてきた古代竜ならば可能かもしれませんが、他の魔物がそんなことをできるとは思えません。それになぜアルエだけがこのアウルクの言葉を理解できているのかもまったくわかりません……」


 まあアルジャのいう通り、すべての魔物が共通語を理解できたりしたらいろいろと問題が起こっている。サンドラは普通に話していたが、あいつは特別なんだよな。そもそも古代竜って魔物なんだろうか? そのあたりの定義がよくわからん……


「ブルルル」


「人は襲わないから、何か食べ物を分けてほしいって言っているニャ」


 俺にはブルルルと言っているようにしか聞こえない。なぜアルエちゃんだけがこのアウルクの言葉を理解できるのかもわからない。アルエちゃんの話によると、他の魔物や動物の声を理解できたのは今回が初めてらしい。


「……まあこっちの言っていることが理解できているならいいか」


 なぜこちらの言葉を理解できて、アルエちゃんがこのアウルクの言葉を理解できるのかはまったく分からないが、こちらの言うことを理解できるなら食べ物を分けてあげてもいいだろう。


「ソニア、アウルクって何を食べるの?」


「基本的には雑食なので、なんでも食べると思いますよ」


「なるほど」

 

 今持っている食べ物はエルフ村のみんなからもらったお土産なので、あげるのはこれ以外にしておこう。


「ソニア、収納魔法からホットサンドを出してくれ」


 ソニアの収納魔法は、物を収納するとその状態のままで収納される。何か起きた時のために非常用のホットサンドを常に収納してもらっていた。いろんな味があるホットサンドなら、このアウルクが食べられるやつもあるだろう。


「私のおやつなんですけどね……」


「いや、ソニアのおやつでもないからな」


 ホットサンドはキャンプ場に来てくれたお客さんのために毎朝作っていて、余った分はすぐに補充できるから多少は食べてはいいと言ったが、別にソニアの間食のために作っているわけではない。


 数日に1回ケーキをひとつ出しているのに間食までしているのか……本当に太ってもしらないぞ。


「ブルルル!」


 シートを敷いて、種類ごとに分けてホットサンドを置くと、アウルクが嬉しそうにホットサンドを食べ始めた。どうやらホットサンドも食べられるようだ。


「……それにしてもよく食べるな」


「よっぽどお腹が空いていたんだね」


 ウドとイドのいう通り、アウルクは並べたホットサンドを次々と食べていく。口に合うものだけ食べるのかと思ったが、この調子だと出したホットサンドを全部食べつくしそうな勢いである。よっぽどお腹が空いていたのだろう。

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