第179話 国への報告
「おう、ユウスケ殿、お邪魔しているぜ」
「ドナルマさん、お久しぶり……ってわけでもないですかね」
「ああ、例の巨大な変異種が出現したという情報が入ってからまだ1週間も経ってないんだよなあ……」
冒険者ギルドマスターであるドナルマさんが、キャンプ場にやってきてくれた。相変わらずスキンヘッドで大柄な人だから、ちょっと怖かったりもする。
「相変わらず怖い顔をしておりますね。アルエちゃんには近付けないようにしておきましょう」
「やかましい! だけど確かに子供にはあんまり好かれた試しがねえんだよな……」
今回はソニアにも同席してもらったんだが、ソニアのたまにでるその毒舌はなんとかならんのか……ドナルマさんにかなりのダメージ入っているし……
「それで、何か御用があると聞きましたけど?」
「ああ。例の変異種に関して報告しにきたんだ。少し時間を取ってもらってもいいか?」
「ええ。今週はお客さんも少し落ち着いていますから大丈夫ですよ」
変異種騒動や変異種討伐の宴会の影響もあってか、今日は比較的空いている。しばらくすれば、客足も元に戻ると思うがな。
「おう、すまねえな。まずは変異種の討伐の報酬についてだが、やはり冒険者ギルドや国の方から報酬を出すことはできなかった。街を救ってくれたのに、本当にすまねえ!」
「いえ、大丈夫ですよ。実は変異種の素材を売却したお金で、このキャンプ場の借金も返せましたし、いろいろと新しい設備も増設できそうです」
初めからそれは予想していたことだった。討伐隊を編成している間に勝手に変異種を倒して、その分の報酬をくれとはさすがに言えない。
「まだ冒険者であるソニアが討伐に貢献したということで報酬を支払おうともしたんだが、それも難しかった。だからこの件についてはひとつ借りとさせてくれ。ユウスケ殿達に何かあった場合は、俺個人として協力させてもらう!」
「……いろいろと骨を折ってくれたんですね。ありがとうございます。こちらも結果的には誰ひとり怪我をせずに討伐できましたし、あまり気にしないでください」
どうやらいろいろと動いてくれたようだ。ソニアも冒険者とはいえ、現在は休職中だからそれは仕方がない。
「そう言ってもらえると助かる。それと変異種を討伐したことについてだが、ユウスケ殿の希望通り誰が討伐したかは伏せてある。しかし、この国のお偉いさんにだけは報告させてもらった。そっちのほうも大事にする気はないみたいだが、もしかすると直接ここに来る可能性はあるかもしれん」
「うわ……マジですか……」
国のお偉いさんがくるとか、本気で勘弁してほしいんだが……面倒ごとの予感しかしない。
「この国のお偉いさんは他の国よりはまともだと思うぞ。それに礼を伝えるために来るわけだから、おかしな要求とかはしてこないはずだ」
「………………」
この国のお偉いさんがまともであることを祈るしかないか。
「あの巨大な変異種をも討伐することができましたからね。国の騎士団くらいならなんとかできると思います。いざとなれば、こちらから国に攻め入ってもいいかもしれませんね」
「いいかもしれませんね、じゃないわ! 漫画の読みすぎだ!」
ソニアのやつ、絶対にこの前読んでいた漫画の影響だろ! さすがに国を相手に戦う気なんて、これっぽっちもないぞ。最近バトルものの漫画ばかり読んでいたからな……
「さ、さすがに国に攻め込んでくるとなると、立場上俺もそれを阻止しないといけないんだがな……」
「いやだなあ、ソニアの冗談ですよ! 国と事を構える気なんて微塵もありませんからね!」
「ならいいんだが……」
勝手に変なフラグを建てるんじゃないよ、まったく。国と戦うなんて冗談じゃない。今度ソニアにはスローライフものの漫画を勧めることにしよう。
「かあああ〜! やっぱりこのビールって酒はうめえな! この冷えた酒は本当にたまらん!」
「他にいろんな酒もあるが、やっぱり一杯目はこのビールが一番じゃな!」
「うむ、一杯目はビールで、二杯目からは日本酒、これが一番じゃ」
「いやいや、二杯目はウイスキーじゃろ。始めのほうに強い酒を楽しんでおいたほうがええわい」
「俺も一杯目はビールが好きかな。二杯目からはツマミ次第で」
今日の営業も無事に終了した。今日はドナルマさんも泊まっていくそうなので、夜に一緒に飲んでいたらドワーフのみんなに誘われたのだ。
俺も酒を飲む時の一杯目はビールが多い。特に仕事終わりで疲れている時はなおのことだな。疲れた身体に冷えたビールは最高である。
「しかし先日の宴会は本当に素晴らしかったな。素晴らしい酒に、素晴らしい料理。あれほど酒を飲んだのは久しぶりだった。あれを味わってしまっては、俺もなんとしても休みを取って通わなければならないな」
今回もドナルマさんにこのキャンプ場を楽しんでもらえたようでなによりだ。
「ユウスケ、いい加減に酒の制限はなくしたらどうじゃ。もう最近は潰れる客もおらんのじゃろ?」
確かにダルガの言う通り、常連のお客さんはもうここのお酒の強さを知っているし、初めてのお客さんにはゆっくりと酒を飲むように徹底して言ってきたかいもあって、多少の二日酔いはともかく、完全に酒で動けなくなるようなお客さんは出なくなった。
「確かに潰れるお客さんはいなくなったけれど、ここのお酒はどれも酒精が強いからなあ……制限を6本にするか、月に一度くらい前回の宴会みたいな日を作るのは検討してみるかな」
前回の宴会は従業員のみんなにとっても、いい息抜きになったみたいだ。月に一度くらいはあんな日を設けてもいいかもしれない。
「おお、それは素晴らしいのう!」
「ユウスケ殿、ぜひとも検討してくれ!」
そうだな、みんなとも相談してみるとするか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます