第177話 馬車と馬小屋


「さあ、今週も1週間頑張ろう!」


「「「はい!」」」


 うん、みんないつも以上に気合が入っているな。先週の変異種騒動も落ち着いて、今日から通常営業だ。昨日はのんびりと過ごしたし、ボーナスの効果もあってか、みんなのやる気も上々だ。




「おおユウスケ、今週もよろしく頼むぞ」


「ユウスケ殿、また来たぞ」


「いつもありがとうな。……というか、さすがに今週くらいは来ないと思っていたぞ」


 いつも通り、今週のキャンプ場一番乗りはドワーフのみんなであった。先週の変異種討伐の宴会でお酒を限界ギリギリまで楽しんでいたから、さすがに今週は開店と同時に来るとは思っていなかったんだけどな……


「何を言っておる。もう2日も空けたんじゃぞ!」


「たとえ酒が飲み放題でなくても来るに決まっておるじゃろ!」


「ダルガ達は相変わらずですね……」


 ソニアの言う通りだよ。まったくドワーフのみんなは相変わらずだな。


「そうだ、今日は大親方達に相談があるんだ。あとでちょっとお邪魔させてもらっていいかな?」


「ほう、ユウスケ殿の相談事か」


「また面白そうなことになりそうじゃな」


「うむ、ワシらのほうはいつでもいいから待っておるぞ」


「ありがとう。それじゃあ、あとでお邪魔させてもらうよ」




「実は変異種の素材を売って得たお金で馬と馬車を買おうと思っているんだ。それで大親方達には馬小屋と馬車を作ってもらいたいんだよ」


「ほう、馬を買うのか」


「このキャンプ場から街までは少し距離があるからええかもしれんのう」


「馬小屋と馬車か……どれくらいの規模を想定しておるんじゃ?」


「馬小屋のほうは一頭しか買わない予定だけれど、一応二頭くらい過ごせる大きさにしてもらいたいかな。場所は今お客さん用の馬を停めている場所の隣の予定だな」


「それとお客様が馬を停める場所に小屋も建てていただきたいですね」


「そうそう。アルジャの言う通りそれもほしいな」


 街で馬を見てきてから、みんなでいろいろと相談した。今はまだキャンプ場が混みだす時間前だから、アルジャにも来てもらっている。


 現在はキャンプ場の入り口から少し離れた場所に、お客さんが馬車でキャンプ場まで来てくれた時用の馬車を停める場所がある。やはり動物だけあって、臭いはどうしてもするから、多少は入り口から離してある。


 大きくて力のある馬なら10人近く馬車に乗れるらしいので、1頭しか買わない予定だが、一応2頭飼えるように大きめの馬小屋を建ててもらいたい。


 それと今あるお客さんの馬を停める場所にも、屋根のある小屋を作ってもらえるとお客さん達もより便利になる。


「馬車のほうは一頭で引けるようにしてもらって、できるだけ大人数が乗れるように作ってもらいたいから、軽くて丈夫な素材で作ってほしいかな」


 街で馬を販売しているお店の人に話を聞いたところ、馬の力や大きさによって乗れる人の数が決まるらしい。多少高くても力持ちの馬を買う予定だが、それでも馬車はできるだけ軽いほうがいい。


 そして盗賊や魔物からの襲撃を受ける可能性もあるため、馬車自体も頑丈にしておきたい。少なくとも弓矢は通さないくらいには丈夫に作ってもらいたいな。


「ふむふむ。よし、任せておけ! ワシが立派なものを作ってやる!」


「待て、ダルガ。こういう時はワシら全員で作ると約束したじゃろう!」


「セオドの言う通りじゃ! 抜け駆けはなしじゃぞ!」


「おっと、そうじゃったな。ちゃんと分かっておるわい。ユウスケ、馬小屋も馬車も立派なやつを作ってやるから待っておれ!」


「……一応言っておくけれど、ちゃんと予算もあるからな。そこまで豪華な馬車とかは必要ないからな」


 放っておくと、とんでもなく高価な素材で、技術の粋を集めたものを作ってしまいそうだ。馬車に金貨1000枚とかはさすがに困るぞ。


「ぬぬぬ……せっかくなら外装に凝った装飾なども付けたかったんじゃがのう」


「いや、あんまり立派過ぎる馬車を作ったら、逆に盗賊に狙われるだろ……」


 それこそ本末転倒である。エリザさん達の馬車みたいに豪華絢爛な馬車なんて、盗賊達に狙ってくれと言っているようなものだ。もちろん、エリザさん達みたいに護衛が大勢いれば問題ないけれどな。


「う〜む、言われてみるとその通りじゃな……」


「その分内装はお客さんを乗せるから、しっかりと作ってほしい。それに商業ギルドの馬車に乗せてもらった時に思ったけれど、やっぱり馬車の振動は結構大きかったから、できればそのあたりをできるだけ抑えてほしいかな」


 ジルベールさんが用意してくれた商業ギルドの馬車で街まで行った時に思ったが、やはり道路が整備されていないため、馬車に乗っている時に振動が強く感じた。一応サスペンションのような仕組みはあったが、そこまで効果的ではないみたいだ。


 その分座席のクッションが柔らかかったため、そこまで身体中が痛くなるということはなかったが、できるだけ振動は抑えたい。


「俺の故郷の乗り物の資料があったから、振動をできるだけ抑えられないかいろいろと試してほしいんだよね」


 ストアで購入できる本の中にサスペンションの仕組みを説明している本があった。さすがに本自体を渡すのはまずいので、必要なところだけを書き写して大親方達に渡すとしよう。


「おお、そいつは楽しみじゃな!」


「ユウスケ殿の故郷の品々には驚かされてばかりじゃから面白そうじゃ!」


「うむ、これは楽しくなってきたわい! 早速設計図を書き始めるとするかのう」


 とりあえず、大親方達に設計図を書いてもらうことになった。あまりやり過ぎるようであれば、そこでストップをかけるとしよう。

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