第176話 ボーナス
「……なんて大金が手に入ったからって浮かれ過ぎるのはよくないな」
借金持ちから一気に大金が手に入ったからといって、調子に乗りすぎるとあとが怖いからな。
「ユウスケにしては分かっているみたいですね。冒険者もそうですが、命や財産を失う時もまた一瞬ですよ」
「……一言余計だけど、言いたいことはよく分かるよ」
こちらの世界では常に危険が隣り合わせだ。一瞬の油断で命を落としてもおかしくない。特に今結界の能力はキャンプ場に固定しているし、街中で不意打ちでもされたら大変だ。俺自身の戦闘能力が皆無であることを忘れてはいけない。
「何かあればソニアもいるし、俺も我を忘れて豪遊なんて馬鹿な真似はしないよ。とりあえずいつも通り市場で食材を買いに行こう」
というより大金を手にした実感があまりないんだよなあ。机に積まれた金貨を見た時は一瞬だけ興奮したが、今はもう冷静になっている。そもそも俺だけの力で手にしたわけじゃないし、このお金は従業員やキャンプ場の施設のために使う予定だ。
「とりあえず食材の購入は終わりましたね」
今日はサリアが一緒に来ていないから、買い物はソニアと2人でしてきた。いつもより荷物が運べないので、ソニアには少し悪いが、収納魔法に収納している物をキャンプ場に置いてきてもらった。そのため、なんとか購入した食材を収納することができている。
「それじゃあキャンプ場に帰る前に馬を見てみようか」
「わかりました。馬の販売を行っているお店はあちらですね」
ソニアに案内されて馬の販売をおこなっているお店へと向かい、いろいろと馬を飼うために必要な話を聞いてきた。
「馬を飼うのっていろいろと大変なんだな……」
「馬も生き物ですからね。当然ですが、世話もしなければなりませんし、必要なものもいろいろとありますよ」
どちらにせよ今日は下見だけのつもりだったため、馬の値段や必要なものだけを確認してきた。実際に馬を購入するときは、馬車の御者ができるアルジャも一緒に来てもらう予定だ。
まず馬車を引けるガタイの良い馬自体の価格は金貨200枚であった。正直に言って、これが高いか安いかはわからないな。元の世界の競走馬はもっと高価だった気もするが、あれはニュースに取り上げられるくらいの血統の良い馬だから、これくらいが妥当なのかもしれない。
餌代のほうは思ったよりも安く、店で販売している乾燥した牧草を中心に与えれば、月に金貨数枚ほどで大丈夫らしい。野菜も普通に食べれるとのことだ。
「あとは馬小屋と馬車が必要か。そっちのほうは大親方達にお願いしようかな」
「……あの方々なら、とんでもない馬小屋と馬車を作ってしまいそうですね」
「確かにね……」
馬小屋と馬車の制作については温泉施設と同様にドワーフの大親方に依頼する予定だが、とんでもなく豪華なものを作ってくれそうだ。馬小屋なのに、貴族の家よりも立派な建物を建てたりとかな。
キャンプ場に温泉施設を作ってくれた時も、想像以上の豪華な内装を作ってくれた。もちろんそれについてはとても感謝している。
「今回は変異種の牙を売ったお金があるから支払いのほうは大丈夫そうだけれど、あまり高額になり過ぎるとまずいからな。そのあたりは今度大親方達とも相談しようか」
大親方達なら無償でやると言ってくれそうだが、親しき仲にも礼儀ありである。お金関係でこれまでの関係が崩れるなんてことは嫌だからな。しっかりとその対価は支払わなければならない。
「そうですね。なんにせよ、いろいろと考えることはありそうです。あれほどの脅威を退けたのですから、できればしばらくのんびりと過ごしたいものですね」
「それは完全に同意だな。まったく、思わぬ大金を手に入れることはできたけれど、もうあんな馬鹿デカい変異種みたいなやつは勘弁だよ」
変なフラグにならなければ良いが、少なくともしばらくはこんな騒動が起こらないと信じたい……
「みんなの協力もあり、無事に変異種も討伐することができて、そのあとの宴会もみんな満足してくれた。というわけで、みんなにはボーナスを支給するよ」
「「「ボーナス?」」」
どうやらこの世界には賞与、ボーナスというものはないらしい。まあ賃金自体がだいぶ安く、全体的にブラックな職場ばかりだからな。
「普通の給料とは別に配る報酬のことだよ。みんなのおかげで変異種を大きな怪我人をひとりも出さずに討伐できたからね。それに日頃からみんなにはとてもお世話になっているから、その感謝の気持ちに受け取ってほしいんだ」
従業員の数も増えて多少キャンプ場での仕事は落ち着いてきたとはいえ、普段の業務はなかなか忙しい。
変異種のおかげでこのキャンプ場の借金を全額返済することもできたし、日頃の感謝を込めてボーナスを渡す良い機会だ。普段の給料の3ヶ月分ほどのボーナスをみんなに渡した。
「え、えっと、私は戦闘に参加してなかったのに、こんなにもらってしまってもいいんですか?」
「ぼ、僕もいつも料理しかしていないのに、こんな大金はもらえません!」
「サリアもイドも、いつもこのキャンプ場を支えてくれているからね。これは正当な報酬だから受け取ってほしいんだよ。といっても、そんなに気負う必要はないからね」
臨時報酬だ、ラッキー! くらいの軽い気持ちで受け取ってもらうくらいでちょうどいい。なにせ元手は変異種の素材を売って作ったお金だしな。
「だが、これだけの大金をもらっても使うあてがないな」
「そうですね……とりあえずは貯めておくことにしましょう」
「うん? ウドもアルジャも休みの日に街へ行って、使えばいいんじゃないのか?」
「そういう意味ではなく、使う必要がないんだ。ここでは宿代も必要ないし、街よりも品質の良い服も支給してもらっている。そしてなにより、街の店で食べる店の食事よりも、ここでの食事のほうが美味しいからな」
「ええ、ウドさんの言う通り、街よりもここでの食事やお酒のほうが美味しいですからね。それに本や遊具などの娯楽もありますし、買いたい物がまったくといってないんですよ。実際のところ、私も今までいただいている給金にはほとんど手をつけておりませんから」
「な、なるほど……」
どうやらこのキャンプ場に衣食住は揃っているらしい。そう言ってもらえると、ここを作った俺としては嬉しい限りである。まあ多くあって困るものでもないし、お金は貯めておいてもらうとしよう。
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