6 『相手がわからない問題』

「まあ、あれだよね。別れても別れてもくっつくのは、それもまた一つの運命なんじゃないの?」

 平田にそう言われ、一旦そちらに視線を向けたものの再び手元に視線を戻す優人。

 手元のスマホには一通のメッセージ。

 姉からである。

「で? どうすんの?」

 メッセージには『婚約おめでとう』の文字。

 正直、優人は困惑していた。


──誰といつ?


「身に覚えがないんだが」

とため息をつく優人。

 平田は埴輪顔だ。

「ゆあち以外と婚約して、佳奈さんが祝福してくれる確率は?」

 佳奈とは姉の名だ。

「100かな」

「100?! なにそれ。どういうことなの?!」

 平田が驚くのも無理はない。まるで姉が結愛との交際を反対しているように感じてしまう反応だろう。


「姉は基本、俺がなにをしても反対はしないから。ちゃんと責任が持てるなら、自由って考え方」

「なるほど。和宏さんとは真逆?」

 和宏とは兄の名だ。

「兄は過保護なだけだと思う」


 兄も姉も末っ子の優人には昔から甘かった。

 姉には『優人のしたいことをすればいいけれど、転んでケガするのは自分。痛いのも自分。だからよく考えて、後悔しないようにしなさいね』と言われてきた。

 一方兄には、『大人になれば学ぶことも多いし、選択も広がる。だから安易な行動はしてはいけない』と教わったのだ。


 つきあった人数は多いが、性交渉をした相手は結愛のみ。

 それは兄と姉の教えを守った結果でもある。


「問題は相手が誰なのかだけれど」

と優人。

「また、ゆあちが思い込みで佳奈さんに言ったんじゃないの?」

「それならそれで、いいんだけど」

「いいのかよ!」

と平田。


「平田が言ったんだろ。どうせ結愛の思い通りにしかならないから、諦めろって」

「それはそうだが。諦めてんの?」

 アイスティーに口をつける優人を眺めながら、平田はチョコを摘まむ。

「どうかな」

 実際のところ、好きというのと相手の思い通りにされるというのは別物だと、思っている。

 どんな相手であれ、許せるものと許せないものはあるはずだ。


「しかし、ゆあちとの交際を和宏さんが容認してるのが意外」

「容認……なのかなあ?」

「どう見ても苦労しそうな相手との交際なんて、許可しそうにないじゃない」

 兄は確かに過保護だし、転ばぬ先の杖をすることは多い。

 けれども、なんでもかんでも反対する人ではないのだ。

 平田はきっと誤解していると思った。

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