5 『約束』

 結婚しようかなんて、簡単に言っていいことじゃない。

 離婚だって出来るのだから、そこまで慎重になる必要はないと思うかもしれないが。


 結婚は、一緒に居たいの積み重ね。

 有名な人が言っていた言葉で、とても素敵な言葉だと思う。

 本人は離婚したそうだが。


 結愛が一緒に居たいと思ってくれるなら、その選択もありだと思っている。

 平田が言うように、何もできない子と一緒になるのは楽ではないだろう。

 そもそも結婚とは何だろう?

 もちろん、法的な意味合いではなく自分にとって何かということ。


 人間の人生において結婚は、一度しかしない人もいれば何度もする人もいる。一度もしない人だっている。

 相手と愛を育み、人生を共にしようとするならばきっと、結婚自体は通過点に過ぎないだろう。


「優人」

「ん-?」

 ベランダで黄昏ていたら、窓を開け結愛が顔を覗かせる。

「姉とは話したのか?」

と優人。

「うん。優人のお姉ちゃんは好き。優しいから」

「そっか」


 結愛はベランダ用のサンダルを履くと優人の隣に並ぶ。

「結愛にとって結婚ってなに?」

 優人の質問に彼女は”急にどうしたの?”と驚いた顔をする。

「結婚はね、約束かな」

「約束?」

 どういう意味なのだろう? と思い、優人は彼女に聞き返す。


「そう。ずっと一緒にいられる約束」

「結愛は約束が欲しいの?」

 その言葉に少し俯き加減で話していた結愛が顔を上げる。

 そして優人の正面に立つと、

「あのね……」

と独白し始めた。


「ずっと、わからなかったの」

 なんのことだろうと優人は結愛を見つめる。

「優人の気持ち。ずっとわからなかったの」

「うん?」

「わかってくれないとも思ってた。好きだから、好きッて言えないこと」

 蓋をして閉じ込めた気持ちと向き合う時が来たのかと思った。

「他の奴には愛してるって言うくせに?」

 結愛は頷く。


 それは今でも納得いかないことだ。


「ヤキモチ妬いて欲しかった。別れたこと、後悔して欲しかったの」

「んー」

「優人は真っ直ぐで、すぐに諦めちゃう。手放しちゃうから。結愛を手放さないで欲しかったの」

 目に涙を溜めていた彼女がぎゅっと優人に抱き着く。

「優人は、別れたらすぐ次作るし。不安でいっぱいだったんだよ?」

 あの頃は言わなかった結愛の本音。


「代わりなんていくらでもいるって、言われているみたいに感じた。でも、結愛の好きは一個なの。優人だけのなの」

「うん」

「別れても……優人と似た人ばかり探しちゃう。優人は一人しかいないのに」

 彼女の肩が震えていた。

「結愛、がんばるから。ちゃんと好きなこと見つけるから。だから……」

 涙声で必死に告げる結愛。

「ずっと一緒にいて欲しいの。優人に」

「うん。約束するよ」


 それがプロポーズだと優人が知るのは、数日後のことであった。

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