4 『その決意?』

 優人はかつて、結愛が同性と仲良くしているところを一度も見たことはない。

 しかしそんな結愛にも特別な人はいる。

 それは優人の姉、佳奈。


「結愛は結婚したいの? 俺と」

「当然でしょッ」

 そうなれば親兄弟にも話さなきゃいけないなと思いながら、優人がスマホに目をやると、姉からメッセージが来ていた。

「姉が今日来るって」

と優人。

 どうやら姉と兄が優人の暮らすマンションへお土産を持ってやってくるらしい。


「お兄ちゃんも一緒?」

 兄だけでやってくることはあっても、姉が一人で来ることは今までなかった。

「そうみたいだな」

 そこで気になっていたことを聞いてみる。

「結愛は同性の友達とかいるのか?」

「いない」

 急にテンションが下がる結愛にぎょっとする優人。

 何か嫌な思い出でもあるのだろうか?

 いや、見た限り良い思い出はなさそうだが。


「一応聞くけど、なんで?」

 自分もあまり仲のいい同性の友人はいないなと思いながら。

「人の彼氏取ったとか、そんなこと言ってくる人ばかりだもん。合わない」

「そっか」

 しょうがないなと言うようにポンポンと頭を撫でてやると、ぎゅっと抱き着かれる。

「優人だけなのに」


 優人は結愛とバイト先が一緒だった時のことを思い出す。

 あの時も結愛が話していたのは男性の同僚ばかりだった気がする。そして女性からはしょちゅう文句を言われていた。

 今なら分かるが、当時は結愛が男に媚びを売っているように見えていたのは確か。

 結愛は男が怖いのだ。だから男に愛想良くする。

 それが男には自分に気があるように見え、女には男に媚びを売っているように見えるのだ。だから余計に孤立し、話し相手が男しかいなくなる。


 そうなってしまった原因は義父にあるのだ。

 あの頃は知らずに結愛を突き放した。それを知ってやり直そうとしたが、拒まれたのである。このままではいけないと、彼女の幸せを祈って離れたのに。


「なあ、結愛」

 今なら教えてくれるだろうか?

「なあに? 優人」

「なんで、ヨリ戻そうって言った時拒否したくせに。また、俺のとこ来たの?」

 優人の背中に回す彼女の腕に力が入る。

「誰にもあげたくなかったから」

と結愛。

 どういう意味なんだと思っていると。

「優人を誰にもあげたくなかったの」

と言う。


 ずっと考えていた。

 優人が離れてから。

 このまま離れたら、優人は誰かのものになっちゃう。

 それは嫌だと思ったの。

 と彼女は言った。


「そんなに好きなの? 俺のこと」

 なんだか不思議な気持ちになる。

 ずっと、引きづっていたのは自分の方だったのに。

 手放したはずだったのに。

「うん……。結愛の世界の中で、優人だけが特別だったの」

 優人深いため息をつくと、

「俺とけ……」

 言い終わらないうちにチャイムが鳴ったのだった。

「け?」

「いや、なんでもない」

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