2 『言うことを聞かない彼女』

「やりたいことは見つかったのか?」

 情事の後、ベッドの上で。

 身体を起こした優人は、床に落ちたシャツを拾い上げると袖を通した。

「うーん。詩を書くのは好きだし、物語を考えるのも好きだけれど」

「それを本業にするのは、大変そうだな」

 下着に足を通す優人の背中に触れる彼女の手。


「なんだよ。今日はもうやらないぞ?」

「そうじゃなくて。優人はどうやって進路決めたの?」

 珍しく真面目な結愛に戸惑いつつも、ズボンに足を通した優人はベッドに座りなおした。

「俺は勤務形態や給料などの条件から決めた。特にやりたいこともなかったし」

 うつぶせに寝転がったままの結愛の頭を撫でながら、

「一生モノの仕事にならなくてもいい。その仕事をやりながら、もっとやりたいことを見つけたら転職すればいいし」

と助言する。


「結愛、自分に向いてることが分からない」

 結愛はもぞもぞとベッドから這い上がると、優人の貸したTシャツに腕を通す。

「結愛は礼儀がなってないから、接客業は向いてなさそう」

 言って苦笑いする優人にぎゅっと抱き着く結愛。

「人と話すのは嫌いじゃないけど、他人は信用できない」

 義父のことがあるからなのだろうか?

 それとも、今まで他人と上手くいかなかったからなのだろうか。


「優人がいるところだけが”ぽかぽか”なの」

 優人と一緒に居なかった期間につきあった相手は、とても酷いヤツだったと聞く。

 自業自得な部分もあるだろうが、好きな奴に対し”死ね”というのはよっぽどのことだろう。そんなことを言われても別れなかった。

 それを好きだからと受け入れた結愛。

 歪んだ愛情を愛情と思わなければ、孤独に耐えられなかったのだろうか。


 お膝抱っこと甘える結愛の求めるままに、膝の上に座らせるが。

「なあ、下は履こうよ」

「なあんで? 興奮しちゃう?」

「しない」

 優人は呆れ顔で。


──お菓子ばかり食べている割には、スタイルは良いんだよな。

 体質か?

 でも、カルシウム不足で骨粗しょう症になりそう。


「女の子なんだから、大事なところは隠そうよ」

「優人にだけ見せてるの」

「そりゃどうも」


 どうせ何を言っても結愛は聞かないのだ。

 きっとどこまで許されるのか、愛情を試しているに違いない。

 必要以上に干渉しない優人は、結愛にとって居心地のいい相手なのかも知れないとも思う。


 兄や姉に面倒を見られてきた優人には、他人の面倒を見るという習慣がない。困ったことがあれば何も言わずとも手を差し伸べてくれたし、何とかしてくれたのだ。

 甘やかされている自覚はある。

 しかしそれに対し、反発することもなかった。

 その上、平田という友人が出来てからは道を外すことはないという安心感も得てしまったのである。


「優人は時々冷めてるよね」

「そうか?」

「でも、好きッ」

 ニコッと笑う結愛。

 優人はそんな結愛を可愛いなと感じ、その身を優しく抱きしめた。

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