1 『結愛の進路』
「結愛、優人のお嫁さんになる!」
「はあ? もっと真面目に進路を考えようよ、ゆあち」
優人はお気に入りの場所に腰かけ、浜辺を眺めながら結愛と平田の話をぼんやりと聞いていた。
「掃除も片付けも料理もできないのに、専業主婦になるっての? それじゃあ、ただのお荷物じゃないか。優人もなにか言ってやってよ」
平田と結愛はダイニングテーブルで向き合って話をしている。
相変わらず、平田はママみたいだなと思いながらも、
「ま、いいんじゃね?」
と優人が返すと、
「ほら、優人が良いって言ってる!」
と嬉々として平田に言う、結愛。
見なくても平田が呆れ顔をしていることくらいは想像がついた。
「あのねえ、ゆあち」
「何、平田」
こういうことは平田に任せておけばいいのだ。
自分が何を言ったところで、結愛の考え方は変わらない。
「優人は良いとこのお坊ちゃんなの。分かる? ここの家賃も親が半分出してる。俺たちは残りの半分を折半してるだけ」
これがどういうことか分かる? と結愛に尋ねる平田。
「何もできない子でいいの? 優人はその気になればいくらでも相手がいるし、親御さんだって優人が苦労すると思ったら、二人を引き離すのなんて簡単なんだよ」
──まあ、当たらずとも遠からずだけど。
むしろ一番反対するの、兄さんだしな。
「キラキラ輝いている子と、ただダラダラしてる子。どっちが素敵だと思う?」
「それは……」
さすがの結愛も、しょげているようだ。
「専業主婦ってゆあちが考えているほど楽じゃないよ? 働かないで食べていける、楽したいと思う人は多いけれど。働いて給料を得るっていうのは、自分の働きが認められるってことなんだよ?」
専業主婦になれば、世界は狭くなる。
他人から認めてもらえる機会は少なくなる。
子供がいなければなおのこと狭くなるし、子供がいても働きが数字として見える社会人とは、気持ちが異なると平田は言う。
「頑張っていることが、例え働きに見合っていなくてもお金として手元に残るのは凄いことなの。その自分が得た報酬を好きなことに使えるから、人は働くことに意義を見出せるんだよ。無給で家事、大変だよ?」
「うん……」
「どんなことでもいいから、好きなことない? やりたいことはないの?」
結愛には今まで、心から心配して寄り添ってくれる人がいなかったんだなと、優人は感じていた。
もし平田がいなかったら、結愛のこの先の人生は空虚だったかもしれないと。
平田は正しい。
いつだって。
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