エピローグ

 音楽を聴きながら、優人はお気に入りの場所となっている出窓に腰かける。

 階下に広がる浜辺。

 少し前までは静かに眺めるのが日課だったのに。

 今は隣に賑やかな結愛がいる。


「平田は良いお嫁さんになるよ!」

 キッチンに向かって結愛が言う。

 今夜はバルコニーでバーベキューをするらしい。


 ベランダとバルコニーの違いは屋根の有無。

 このマンションにはどちらのスペースもあるが、バーベキューをやるなら少し広めのところかつ煙がこもらない方がいいというので、バルコニーでやることにしたのだ。


「優人に貰って貰おうかな」

と平田。

「優人は結愛のだよ! 重婚は認められてないのッ」

「じゃあ、ゆあちが諦めてよ」

 

 相変わらずわけのわからないやり取りをしているなあと、優人は傍らのグラスに手を伸ばす。

 結愛と出逢ったばかりの頃はこんな日が来るなんて思っていなかったし、半年前はもう二度と会うことはないと思ってさえいた。


「優人も何か言ってよ」

と結愛。

「じゃあ政治家にでもなって、重婚可能な世の中にしたらどう?」

と優人。

「ちょっと待って、優人は重婚したいってこと?!」

「そうは言ってない」

 どうやら面倒なことになりそうだ。


「はいはい、準備できたよ。運ぶの手伝って」

と平田。

「平田もなんとか言ってよ! 優人が重婚したいって」

「そんなこと言ってないし、平田ママに怒られる前に手伝おうぜ」

 優人は立ち上がると、キッチンへ。

「優人はこれね」

と平田に大皿を渡される。

 色とりどりの野菜と肉が美味しそうだ。



「さて、乾杯」

 月の綺麗な夜だ。

「来年はどうしているのかな、俺たち」

と平田。

「社会人なんて、何も変わらないだろ? 肉ばかりじゃなくて野菜も食えよ、結愛」

「結愛は肉食動物なの」

 野菜を優人の皿に乗せながら。


「ゆあちは肉食系女子だしねえ」

と平田。

 その言葉に『違いない』と優人が笑う。

「優人は肉も食べた方が良いよ? 草食系男子なんだから」

と結愛。

 その言葉に平田が笑っている。

「結愛の性欲にはついていけません」

と優人が若干ムッとするも、

「だから結愛が毎晩襲ってあげてるじゃない」

と言われ、むせた。


「ゆあちは優人のどこが好きなわけ?」

と平田。

 エビをつつきながら。

「んー全部」

「だってよ、優人。優人はゆあちのどこが好きなの?」

「俺を好きなとこ」

 優人はコーンに手を伸ばしながら。

「なにそれ!」

と結愛。

「なんで? 俺のこと好きでしょ?」

 今までの仕返しと言わんばかりに、意地悪い笑みを浮かべる優人。

「それは……」

「お、花火だ」

 

 季節外れの花火が一発。

 まるで『そうだよ』と言うように、夜空に綺麗に咲いていた。

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