7 『毎晩迫る、その理由』

「親に挨拶に行ったりしなくていいのか?」

 優人は砂浜を結愛と歩きながら。

 時々貝殻を拾い、眺める結愛。

「いいの」


 高校の時からあまり家にいつかなくなった、彼女の事情はなんとなく察していた。義理の父が一番の問題であること。

 一応、優人の親の方から結愛の母親には話を通したようだが。

 ふらふらした娘が一つのところに落ち着くことには賛成してくれたとのこと。成人はしていても、他人の娘。男と一緒に暮らすなら話しておいた方がいいというのが、優人の判断だった。


 その役を引き受けてくれたのは母。

 過保護な兄が名乗り出たが、ここは親の方がいいのでは? という姉の助言を受け兄は引いた。


──兄さんが賛成してくれたのが、平田と二人きりにならないためと言うのがどうにも納得いかない。

 なんで男の平田よりも、女の結愛の時の方が乗り気なの?


 何かがオカシイと思いながらも、また反対されると面倒なので深く追及はしなかった。


「結愛は、今幸せ?」

 義理の父とのことを聞く代わりに、優人はそう質問する。

 彼は結愛に性的暴行を加えようとした前科があるらしい。

 ちょうど姉が帰宅し、難は逃れたが責められたのは自分の方だったという。酷い話だ。結愛はそれ以来、荷物を取りに行くくらいしか家に帰らなくなった。

「うん。優人と一緒だから」


 貝殻を砂浜に置いて、優人にぎゅっと抱き着く彼女。

 長い髪が潮風にさらさらと流されていく。


 彼女はずっと居場所が欲しかったのではないかと思った。

 安心して落ちつける場所が。


「優人は幸せ?」

 今度は結愛に聞かれ、静かに微笑む。


 互いに好きだったのに、すれ違ってばかりいた。

 お互いを大切だと心から想えるのは、たくさん失敗して寄り道したからなのかもしれない。


「結愛が素直なら、俺は幸せ」

「じゃあ、今夜もいっぱいラブをあげる」

 抱き着く腕に力を入れる結愛。

「えーまだすんの?」

「するー!」

 ゲンナリとした優人は、

「なんでそんなにしたいわけ?」

と素朴な疑問を投げかける。

 すると結愛は、

「優人を欲求不満にしないためだよ」

と言うのだ。


「はあ?!」

「だって、欲求不満にさせたら、優人が浮気するかもしれないもん」

 結愛の言いたいことはなんとなく理解できたものの。


──俺は欲求不満になったことなんて一度もないんだが。


 と心の中で零す。

 余計なことを言えば、また面倒なことになりかねない。


「何というか、まあ……そうだな。お気遣いありがとう」

 どう返していいのか分からずにそう返すと、

「どういうこと?」

と聞かれる。

「どうもこうもないだろ? さあ風が出てきたし、家に戻ろう」

「ねえ、優人?」

「早く帰らないと、平田ママに怒られるよ」

 

 優人はなんとか誤魔化して、結愛を家に連れ帰ったのだった。

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