6 『三人の日常』

「結愛、俺たちと一緒にここで暮らす?」

 結愛ももう成人している。親の許可はいらない年だ。

 それなのにいまだに友人の家を転々としているのは、生活力がないからだと思う。このままだらだら居つくよりも、ちゃんと居場所を用意してあげたいと優人は思っていた。


「優人と?」

「なに、俺を追い出したいの?」

 優人はくくくっと笑うと、傍らのシャツに手を伸ばす。

「結愛、ここに居て良いの?」


──こんなにヤっちゃってて追い出すとか、どんな非人情な奴だよ。


 実際、結愛にこの話を切り出すには一週間を要したのは事実。

 その間、毎晩迫られ一旦は断るも落城しっぱなしだ。

 ただ不安はある。

 愛で迫るのか。ここに居るために迫るのか。

 結愛は自分以外とはしていないと言うが、他の人のところでもこんな風に一泊の宿代のような意味合いで身体を差し出していたのではないだろうか? と。


 疑心暗鬼に駆られないためにも、居場所をきちんと作るべきだと思うのだ。それで迫らなくなるなら、そういう意味だと受け取るしかない。


「どうする?」

と問うと、ぎゅっと抱き着かれた。

「優人と一緒に居たい」

 ”おいおい服を着ろ”と思いつつも、抱きしめ返してやれば嬉しそうに笑う。

 やっぱり自分はこのわがままで自分の思い通りにしたがる彼女のことが、好きで仕方ないのだろうと思った。


「優人、好き」

「俺も好きだよ」

 ちゅっと口づければ、彼女が上目遣いで優人を見つめる。

「もう一回しよ? 優人」

「え。まだやんの?」

「優人枯れてんの? 淡泊過ぎない? 結愛のこと、ほんとに好き?」

「おま……失礼な。三回も強請っておいて、それはないだろう」

 相変わらず理不尽だ。


 どうやら宿代と言うよりは、求められたいらしい。

 そういえば付き合っていた時もこうだったなと思いつつ、優人の理性は落城した。

 

──平田にまた怒られそうだ。



「君たち、ラブラブなのは良いけれど、朝ご飯くらい食べなよね」

 案の定、起きていく頃には十時を回っており平田に怒られる。

「ゆあちは声を抑える!」

「結愛は平田に聞かせてんのッ。愛しの優人があんなことやこんなことしてるって想像したら、萌えるでしょ?」


──何言ってんだ、結愛は。


「俺の優人がゆあちの毒牙にかかっていると思ったら、萎えるわ!」

「今、俺の優人って言った!」

「言いましたとも!」

「んッ、詳しくううう」

 呆れながら二人の話を聞いていた優人は、身を乗り出した結愛にぎょっとした。

「平田の妄想を、結愛に詳しく聞かせて。ねっ? 平田」

「そういや、ゆあちはお腐れ女子だった……」

と肩を竦める平田。


 こうしてお腐くされ女子と鉄壁の理性(落城中)とママみたいな友人の奇妙なルームシェアが始まったのだった。

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