5 『ルームシェアの経緯』

「で、実際どうすんのさ」

 店長と別れ帰宅すると、平田は出窓をガラスクリーナーで掃除しながら優人に問う。優人は床にモップをかけつつ、

「なにを?」

と返答した。

「ゆあちのことだよ。どうせ部屋は余っているんだし、俺は構わないよ? 三人で暮らしても」

 平田は優人が唯一信頼している友人。

 三人で暮らしても優人が結愛と恋人でいる限り、手は出さないだろう。そういう面でも安心できた。


 何より……

「俺たちを置いて出るとか言わないんだ?」

「いなくなって困るのは、優人だろ」

 よくわかっていらっしゃる。


 平田がいつも料理を担当するのは、何も優人が出来ないからではない。

 彼の仕事は安定した、定時であがれる職だった。

 基本は定時退社の優人だが、何があって残業になるか分からない。その上、両親が金を持っていたため家賃のいくらかを補助してもらっているのだ。

 実質優人のほうが多く出していることから、平田が料理を担当してくれている。


 環境のせいもあってマメに家事をこなす優人と気遣いの巧い平田は生活スタイルが合致していた。大学時代から、既に数年こんな暮らしだ。


「ゆあちに俺の代わりが出来るとは思わないし、この広い部屋を優人が一人で管理するのも大変。何より俺はここが気に入っているしね」

 平田は手を止めて出窓から見える海岸を見つめる。

 五人家族だった優人は一人暮らしをするということを想像することはできなかった。賑やかな家族、仲のいい兄弟。ずっとそのままでいることが出来ないことを知ったのは、兄が家を出たから。


 自立しないといけないと焦っていたところに、

『学生の一人暮らしって生活キツよな』

と平田が嘆いていたのだ。

 ルームシェアしないかと持ち掛けたのは優人の方。

 甘えん坊の末っ子が友人とルームシェアをしたいと言い出したので、あの時は家族全員埴輪顔になった。


 一人だと家族が増えて心配だから、友達と一緒なら良いよと父。

 次から次へと彼女を作る優人に、そういう懸念を父が抱くのは致し方ない。


──酷いよ、父さん。

 俺は軽率な性行為なんてしないのに!


 お友達に迷惑になるようなことをしたらダメよ。

 と、父と同じく友人と一緒ならいいと承諾してくれた母。


──自分の息子を信じろよ! 母さん。

 俺は意外とマメなんだ。


 『平田君となら安心ね』と言う姉に、『平田といて安心なことなんてあるか!』といつまでも反対していた兄。

『お兄さんに優人には手を出さないと誓約書を書かされたんだが』

と笑っていた平田。


──兄さんは、平田をけだものか何かと勘違いしてるんじゃ?

 

 あの時は、たまに兄がここへ遊に来るという条件付きで、何とかルームシェアに漕ぎつけたのだった。

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