4 『昔馴染み』

「あれ。彼氏?」

 結愛を車でバイト先まで送っていくと、バイト仲間に問われる彼女。

 少しくすぐったい気もするが、それよりも結愛がずっと同じバイト先続けていたことが意外だった。

 そのため、もちろん知り合いもいるわけで。


「雛本君じゃない。結愛ちゃんとヨリ戻したの?」

と店長に聞かれた。

 否定できない雰囲気に曖昧あいまいな返事もするも、

「そうなの」

と結愛が代わりに答えるものだから困る。

 結愛を中へ見送っていると、

「浮気しないでよ?」

と結愛に言われ、早くいけと言うように手を動かしジェスチャーした。


「良かったわねえ」

 しみじみとそう言う店長に、『何がだ』という視線を向ける優人。

「あの子、バイトは真面目に来るし仕事もちゃんとやる子だけれど、バイト仲間の女の子とは仲が悪いでしょう?」

 優人は自分がここで働いていた時のことを思い出し、曖昧に頷く。

「彼氏を取った、取られたは日常茶飯事。あの子が異性にしか愛想が良くないのが原因だけれど」

 何度か注意をしたものの結愛から突っかかることはなく、むしろ女子とは関わらないようにしているのが見受けられたそうだ。

 そのため、双方をなだめるにとどめていたのだという。


「あの子の家庭環境を考えると、強くも言えないしね」

 ここの店長が慕われるのは、ただの雇い主とバイトの関係ではないから。訳アリの少年少女を積極的に雇っている。

 家に居心地が悪くて、その辺を毎日徘徊している高校生に声をかけたり、面倒見の良い大学生を雇ったりしてバランスを調整しているのだ。


『行くところがないなら、うちでバイトなさいな。時間が潰せるし、お金も稼げる。もちろん賄いつきよ』


 こんな大人がいるんだと、優人はびっくりしたものだ。

 自分の家庭は両親共に仲が良く兄弟仲も良かったが、それが当たり前だと思ったことはなかった。

 彼女がそう、俗に不良と呼ばれる子たちに声をかけているのを見て、自分もこの人の元で働いてみたいと思ったのだ。


『お金には困っていないし家も居心地がいいしバイトをする理由はないけれど、尊敬できる大人の元で社会勉強がしてみたい』

 それが優人がここでアルバイトをしたいという動機だった。

 店長は一瞬、驚いた顔をしたけれど、

『明日から、都合のいい時間においで』

と満面の笑みを浮かべていったのだ。

 

「あの時は、急に辞めてしまって」

 優人は過去を振り返り、店長に謝罪の言葉を述べる。

「いいのよ。うちにはいっぱいバイトさんがいるから。それより、相変わらずいい男ねえ。モテるんじゃないの?」

と茶化された。

 そして、

「雛本君も何か困ったことがあったら、気軽に連絡してきなさいな。あの子のことでも」

と店長から個人的な連絡先を渡される。


──また平田に怒られそうだ。

 

 優人は思わず苦笑いをしたのだった。

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