3 『一つの条件』
──こんなことは卑怯だけれど、同じ過ちは繰り返したくない。
思い通りにしたいというなら、抗うのみ!
拳をぎゅっと握り締め、決断力のポーズをしていると、
「何してんの? 優人」
と背後から平田に覗き込まれ、優人は顔を赤らめる。
「いや、決心を固め気持ちを新たにしてだな……」
「だから、無駄だって」
と平田は苦笑いをしていた。
「優人、おはよー」
「俺には? ゆあち」
「おはよ、平田」
結愛の扱いの違いに、”何その違い”と平田が笑っている。彼がキッチンへ向かうのを確認し、結愛をダイニングに促す優人。
「何々? どうしたの?」
背中を押され、後ろを振り返りながら結愛が問う。
「いいか、結愛」
「うん? 心配しなくても、平田と二股とかしないよ、結愛」
それも心配だが……ってちがーう!
「付き合うには条件がある」
「うん」
なんだろう? と言うように小首をかしげる彼女を抱きしめたい衝動に駆られるが、まだ敗北すべき時ではない。
意を決して要望を口にする。
「俺は好きと言われたい」
しばしの沈黙。
優人の要望にきょとんとしていた結愛が、”なんだそんなこと”と言うような表情をした。
優人にとっては何年も自分を苦しめたこと。
絶対に譲れない。譲ってなるものかと、再び決断力のポーズを決めたところで、
「好きだよ、優人」
と結愛が天使のような笑みを浮かべる。
優人は完全敗北した。
「なにしてんの、優人」
床に突っ伏し悶絶する優人に、フレンチトーストをのせた皿をダイニングテーブルに置きに来た平田が呆れ顔で声をかける。
優人は涙目で、平田を見上げた。
「遊んでないで、朝飯食いなよ。ゆあちはバイトあるんでしょ?」
──理不尽だ!
「平田、ママみたい」
結愛は平田の手元を覗き込み、”フレンチトーストだあ”と喜んでいる。
「ゆあちをバイト先まで送ってあげなよ、優人」
「はいよ」
まだ負けてないと優人は再び、新たな目標を立てた。
一度くらいなら、簡単に言えるだろう。
──俺は、高頻度で言われたいんだ!
「ねえ、条件叶えた。結愛とつきあうよね? 優人」
「あのな、無理やり言わせるとかそう言うことじゃなく。俺は自然にこう……溢れる愛と共にだな」
もう自分でも何を言っているのか謎だが、
「つまり、しょっしゅう言って欲しい」
「うん。だから好きだって。優人、大好き」
むぎゅっと抱き着く結愛に、優人は己の決断力の弱さを思い知る。
──これじゃ負けっぱなしじゃないか!
うん、でも可愛い。
そして、
「無駄な抵抗してないで、早く食えよ! 優人」
と平田に更に追い打ちをかけられたのだった。
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