7 『葛藤と現実と』

 人が束縛をするのには理由がある。

 相手にそうさせてしまうのは不安によるもの。

 自分を信じてくれている相手ならば、束縛なんてしないものなのだ。

 けれども、当時の自分にはそれが分からなかった。


 付き合いって、こんなもんなんだ。

 優人にそう思わせた三人目の彼女。

 Bluetoothイヤフォンから流れるfeeling。

 相手もきっと同じことを考えているのかもしれない。


「ごめんね! 待っててくれてありがとう」

 もちろん、初めての彼女とも違う。

 良くも悪くも普通の女の子。

「いや。どこか寄ってく?」

 彼女には、優人と結愛の関係が良く見えていたのかもしれないし、自分が相手に気持ちがないから単調に思えるのかもしれない。

 付き合いを続けているうちに結愛への気持ちも忘れるだろう。

 そう、思っていたのに。


 結愛は良い彼女とは言えなかった。

 男であれば誰彼構わず愛想を振りまくし、ちやほやされるのが好きなのか、モテると豪語していとわないし。

 けれど簡単に連絡先を教える子ではなかったし、バカだなと思えるくらい自分の気持ちに嘘はつかなかった。

 自分のことばかり話しているし、好奇心旺盛だった。

 自慢ばかりだな、コイツと思うことは多々あったが、それでも好きだったからそれなりに付き合っていられたのだと思う。


 チラリと自分の腕に腕を絡める彼女を見て、大胆だなと思った。

 初めての彼女は遠慮深い子。

 触れ合うのを躊躇ってしまうくらい清楚で控えめだった。

 喧嘩別れしてしまうまでは凄く相性は良いと感じていて、毎日自らやり取りしていたのはその彼女が初めて。

 引きずっていたのは、とても好きだったからだと思った。


 だからこそ、結愛の時は根気よく相手をしていたのに。

 付き合うのは簡単じゃない。

 でも別れることはいつでも選べる。

 今度は後悔しないしようにしよう、そう思ったから。


 優人には後に平田と言う友人が出来るが、彼がいないうちは行動を咎めてくれる人もいなければ、是非ぜひを問う者もいなかった。

 確かに兄や姉は心配はしてくれる。だがどちらも自分には甘く、どちらかと言うと道を正すというよりはいつでも自分の味方。

 そんな環境にいたのだ。多少痛い目を見ても仕方ないのだと思う。


「優人!」

 自分を呼ぶ声に気づいてそちらに目を向けたが、自分はこんなにも周りを見ていないのだろうかと思った。

「あなたなんなの? 優人から離れて!」

 金に近いベージュの髪を二つにわけ制服を着た女の子が走って来たかと思うと、優人と新しくできた彼女を引き離す。

 それどころか、

「優人は結愛のなの! 触らないで」

と相手をひっぱたいている。

 あっけにとらえていた優人だったが、

「止めろ、結愛」

 痛がっている彼女を見て、その身体を肩に担ぎ上げた。

「なあんで?! どうしてその子を庇うの?」

 結愛は優人の背中を叩いている。

 優人は『ごめん』と彼女に謝ると、結愛を担いだまま歩き出したのだった。

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