6 『それがすべての始まり』

 両想いは奇跡。

 別れるのは簡単。


 別れてもバイト先で会うのは気が重いが、そのうち慣れるだろうと思っていた。しかし結愛は、三日経ってもバイト先に現れることはなかったのだ。

 肩透かしを食らった気分になり、もしかした辞めてしまったのだろうかと思いもしたが、

「結愛ちゃんは、具合いが悪いって休んでいるのよ」

と店長から説明され複雑な気持ちになる。

 彼女が休んでいるのは、きっと自分のせい。

 

 しかし四日目になれば、何度もかかって来た連絡も無視をしたためか、途絶えている。終わったんだなと思うと、あまりのあっけなさに心にぽっかりと穴が空いたようになっていた。

 終わりにしたのは自分。

 なのに矛盾した気持ちに、いら立ちを感じた。


「ねえ、雛本くん。あの子と別れたって本当?」

 それは五日目のこと。

 どこから聞きつけたのかバイト先の女の子にそう聞かれ、何故知っているのか? と問えば噂になっていると言われる。

 噂の元は先日結愛と話していた男性であり、結愛が彼にそういったのかと思うと、憎しみすら沸き起こった。


 別れたいから別れたはずなのに、他人の口から言われると腹が立つのはどうかしている。だからだろうか。

「だったら、私と付き合わない?」

 ずっと好きだったと言われ、簡単にOKしてしまったのだ。


 こんなのは当てつけに過ぎない。

 けれども、結愛には自分がいなくても平気なのだと思ったら、悔しくてたまらなかったのだ。

 きっと、あの男と付き合うのも時間の問題。

 未練があるなんて思われたらしゃくだ。


 意地を張る自分と素直じゃない結愛。

 どちらかが譲歩しない限り、上手くいくわけはない。

 せめて、彼の噂がどこからの情報なのか確かめるべきだったと思う。

 だが、この時の優人には余裕がなかったのだ。


 それが彼の策略だと知っていれば、安易に他の人と付き合ったりしなかっただろう。これが二人の分岐点でもあった。

 何度も別れてくっついてを繰り返すことになったのは、互いに疑心暗鬼になっていて相手を信じられなくなったから。


 それから結愛と再会したのは、二日後のことだった。


 行動は言葉を越える。

 好きと言う言葉に頼らなければ、自分は救われたのだろうか?

 彼女が真に求めているものが分かれば、道を違えなかったのだろうか?

 二人いつまでも傍に居られたのだろうか?

 

 互いに幼過ぎて。

 好きすぎて、ボタンを掛け違えたまま進んでいく。

 この手を離すことなんて、本当は望んでいないのに。


──君の好きとは何だろう?

 俺は君にとって、なんなのだろう?


 何年も引きずることになった始まりであり原因は、ここにあったのである。

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