5 『困った遭遇』

「なんだよって、優人酷い」

 通話を切って相手に向き合えば、むぎゅっと抱き着かれた。

「おい、何してんだよ」

 自分たちは終わったはずだ。新しい恋人がいることも聞いている。

「彼氏いるんだろ? こういうの止めろって」

 引き離すでもなく、困った顔をして言う優人。彼女こと結愛はお構いなしだ。だが、こんなところを平田に見られたら面倒なことになる。

「優人は彼女いるの?」

 優人の胸に顔を押し付けたまま、不機嫌そうに問う彼女。

「いないけど。そういう問題じゃないだろ」


 振り回されるのはいつものこと。

 そうやって何度もヨリを戻して来たのだ。だが、今回ばかりは違う。今までなら結愛は、次の恋人なんて作らなかった。

 たった半年なのに、そんな簡単に気持ちを変えることが出来るのだろうか?

 以前にも、二股をかけられていたのではないかといぶかしんだこともある。


 元々喧嘩をするようになったのは、結愛が喧嘩くらいしたいと言ったからだ。

 そして、うまくいかなくなったのは彼女の友人に、

『結愛、彼氏いなかったっけ?』

と言われたから。


 好きだったから大切にしようと思った。

 優しさだけで愛せたらどれだけよかったことか。


 しまいには喧嘩ばかりするようになった。

 喧嘩する度、他の男と仲良くするのを見て、嫉妬でおかしくなりそうだったのに。何も伝わってなくて、喧嘩別れする度つきあってと言われるままに他の子と付き合ったりした。

 どっちもどっちだと言われてしまえば、反論はできない。


 けれども、どんなに聞いても素直に好きとは言ってくれない。

 好きとくらい言ってくれでもいいじゃないか。

 互いに嫉妬しながら、何度もくっついたり離れたりしていたのだ。


 このままじゃ互いに幸せにはなれない。

 そんなの分かり切ったこと。

 あれだけ悩んだのに、半年で二人も新しい彼氏がいるなんて。

 自分の選択は間違っていなかったとしか言いようがない。


 と、そこへ、

「結愛、何してるんだ? 帰る……」

と知った声がした。

「今、優人と話してる。なお黙ってて」

 先ほど優人に話かけてきた、結愛の元彼は尚というらしい。

 相変わらず気安く呼び捨てにしやがってと、殺意が芽生えたが結愛に抱き着かれたままで身動きが出来ない。

「結愛、離れろよ」

 呆れ声で優人がそう言うも、

「離れたら会えないから嫌」

と言われてしまう。

「分かった。後で連絡するから」

「絶対?」

 優人は、その問いかけに頷く。早く平田の元へ戻りたかった。

 しぶしぶというように優人から離れた結愛は、元彼と連れだって店を出て行ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る