6 『平田は正しい』

「で、どうなった? 元カノちゃん」

 席に戻ると早速さっそくそう平田に問われ、

「どの、元カノ?」

とアイスティーにストローを差しながら優人は聞き返した。

「どのって……」

 平田は困ったように眉を寄せるとスマホから顔を上げて、

「連絡してたんじゃないかよ」

と言う。

 優人は結愛たちが駐車場へ向かう姿を、ガラス張りの窓から眺めながら、

「ああ……会うよ」

と気のない返答をする。


 ストローに口をつけようとして、呆れ顔の平田の表情が視界に入った。

「なんだよ」

「お前ねえ」

 平田は片ひじをテーブルの上につき、顎を手のひらの上にのせると、

「そういうとこだぞ」

と言う。

 なんのことか分からず、優人は上目遣いで平田を見つめたままアイスティーを吸い込む。

「呼べば来る、便利な男」

 そこで優人はむせた。

「どういう意味だよ」

 抗議するも、

「元カノちゃんと縁が切れない理由、ちゃんと考えたことあるのかよ」

とストローの先端を向けられ、

「ない」

と即答する。


 だが、

「嘘だ」

ときっぱり否定された。

「分かっているなら、聞くなよ」

「だからさ。そういうの止めろって」

 平田が言いたいことは分かっているつもりだ。

 それでも別れた彼女に呼び出されれば会うのは、何か用があるのだろうか? と思うからで、別に未練があるわけじゃない。

 結愛以外には。


──便利な男ねえ。


 呼び出されて言われることと言えば、

『考え直して』

 つまり、別れたくないである。

 そんなに好かれるようなことをした覚えはない。

 だが少なくとも結愛と付き合っていたころに別れては、間に付き合っていた元カノたちは”別れた方がいい”と思って別れた子たちだ。

 結愛が嫌がらせをしていたと知り、罪悪感が芽生えた。

 償いになどならないかもしれないが、会うことで気が済むならそうしたいと思っている。良くないことだとは分かっていても。


「優人のは、間違った優しさだぞ」

「分かってるよ」

「会わないことで次の恋に進めるかも知れないのに、それを阻害しているんだぞ?」

 平田のいうことはもっともだと思う。

「相手に気を持たせて、傷つけているだけなの自覚しろよ」

 平田が怒るのも無理はない。


「まったく、何処が良いのやら……」

 彼の呟きに、

「平田も俺のこと好きじゃん」

と言えば、

「おま……っ」

 彼は言葉を失った。


──後で結愛にも連絡しなきゃいけないのか。


 平田が何を思っているのか分からない。

 テーブルに視線を落とし、なんと言おうか考えているように見えた。

 そんな彼を眺めながら優人は、憂鬱だなあと思うのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る