4 『優人の元カノたち』
優人は平田と向きって食事をしながら、手紙の主のことを思い出していた。
髪が長くておしとやかで友人がたくさんおり、清楚という言葉がぴったりの可愛らしい子だった。
性格も見た目も結愛とは正反対。結愛はギャルのようなカッコを好み、同性には嫌われているような生意気な女の子。
だがどちらかというと、嫉妬心が分かりやすい結愛の方が優人にとっては、付き合いやすい相手だった。
手紙の彼女と別れたのは、彼女が自分以外の男を特別扱いすることに耐えられなかったから。何度言っても彼女は周りを優先的に大切にし続けた。
先に結愛とつきあっていなかったなら、それも耐えられただろう。
自分が相手の世界の全てを占めたいなどというのは、子供じみた欲望でしかない。今なら分かる。
けれども、一度冷めた愛は元に戻ることはない。
──好きだったのに……な。
今度こそ上手くいくと信じていたのだ。
だが一度掛け違えたボタンは、容易に元には戻らなかった。
『服着てよ』
『嫌よ、優人。わたし、別れたくない』
彼女が優人の気持ちを理解した時、何もかもが手遅れで。彼女は優人を引き留めるために、その身を差し出そうとしたのだ。
そこまでして自分を愛してくれるのだと思えたなら、救われたのかもしれない。しかし優人はそれを侮辱と受け取った。
ごめんと言って優人は彼女を置いて部屋をでたのである。
あれから彼女には会っていなかった。同じ構内にいながらすれ違うことすらないのは、大学とはそういう場所だからだと理解した。
──傍に居て欲しかった。
ただそれだけだったのに。
「どこ行くんだ? 手洗いか?」
徐に立ち上がる優人を見上げる、平田。
「いや、電話してくる」
「ああ。行ってらっしゃい」
レトロな店内にはガラス張りに赤い格子が付いたボックスがある。以前はそこに公衆電話というものがあったらしいが、スマートフォンなどの携帯できる電話が主流になった現在は表に出なくても通話の出来る防音のボックスとなっていた。
「あ、優人だけど。どうした?」
電話をかけながらボックスのドアを開けると、直ぐに相手が電話口にでる。電話の向こうは騒がしい、大学構内の食堂にでもいるのだろう。
別れても普通なのが嫌と別の彼女に言われたことを思い出しながら、相手の話を聞いていると、不意にドアがコンコンと叩かれる。
今入ったばかりだぞと思いながら振り返る、優人。
「え……」
優人は相手を見て固まる。
なぜこんな所にいるんだと心の中で舌打ちしながら。ヤレヤレと思いながらドアを開け、
「なんだよ」
と返せば、相手はふくれっ面で優人を睨みつけたのだった。
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