2 『優人と平田』
「少し時間ある?」
と言われ、馴れ馴れしい相手に返事をしようとしたところで、
「優人」
と背後から声をかけられた。
優人より少し背が高く、スラリとした体形。ストレートの少し茶色かかった長めの前髪。黒い襟付きのシャツに薄手の白いカーディガンを羽織り、深くくすんだ色のタイトなパンツスタイルの洒落た男が優人の方を見ていた。
彼の名は、平田
「誰、その人」
平田は、いわゆる
そんな彼が、なんだか不機嫌そうに優人を見ていた。
──女子じゃあるまいし、友達を取られそうになっての嫉妬とかじゃないよな?
優人は自分のことにはまるっきし鈍感だったので、変な奴に絡まれているのではないかと彼が心配してくれているとは考えない。
「誰って、結愛の元カレらしい」
優人は嫌そうに答える。
平田がホッとした表情を浮かべたあと、複雑な表情をした。
「次、講義だろ。行くぞ、優人」
「あ? ああ」
腕を掴まれ引っ張られながら、講義なんてあったか? とぼんやり思う、優人。結愛の元カレとやらが、何か言いたそうに二人を見ていたのだった。
**
「おい、平田!」
”何処まで行く気だよ”と平田に声をかけると突然、彼は立ち止まる。
振り返ると、彼は少し険しい顔をしていた。
「何、怖い顔して」
彼はどちらかと言うと、いつも柔らかい表情をしているイメージの男だ。どちらもイケると言うだけあって、それは老若男女変わらない。そう、優人に対しても。
いや、一度だけ、
『俺とつきあう?』
と提案されたことがある。
当時、優人は、
『バリタチなので』
と言って断った。
それ以来、彼はそのことについては何も言わない。きっと、彼の恋愛対象からは外れたのであろう。
優人がじっと彼を見つめていると、
「優人がどうしようもないドMだという事は、俺も知っているが」
と、とんでもなく失礼なことを言い始めた。
元カノにしても親友の平田にしても、自分の周りには平気で失礼なことをいうヤツばかりだなと、優人はムッとする。
しかし不機嫌な顔を平気で出来る相手もまた、優人にとっては彼らだけであった。
「なんで自分から傷つくようなことするんだ。頭おかしいのか?」
「は?」
彼の言うことはよくわからない。
そもそも声をかけて来たのは、向こうなのに。
「そんなだから、いつまでも元カノちゃんに振り回されるんだよ」
彼の言うことは間違ってはいないが理不尽だ。
──俺から話しかけたわけじゃないのに、何だよ平田の奴。
味方をして貰えないことが嫌なのか、自分のせいだと思われたのが癪だったのか分からないまま床に視線を落とす優人。そんな自分を複雑な表情で見つめる平田の視線に、優人は気づかないのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。