エピローグ
スピーカーから流れ出す、Nobody's Love。
この曲が流れる度、胸が締め付けられて、泣きたい気持ちになるんだ。
優人は窓際に設定された長いボードの上に腰掛け、片膝を抱えると窓の外に視線を移す。
そこからはいつもの浜辺が見えた。誰もいない海。まるで心の中の情景のようだ。
──失ったのは恋だけだったのだろうか?
優人はため息をつくと、膝に顔を埋める。
先日さよならをした、かつての恋人に告げた言葉を思い出す。
もう永遠に手に入れることのない温もり。突き放したのは自分なのに、心配でたまらない。
『もう、俺から卒業しないと』
泣きじゃくる彼女に何度も何度も優しく言い聞かせ、自分から離れるように言った。
過去の自分を超えることが出来たなら、もう一度くらいチャンスはあったのだろうか?
あるはずのないifばかり考えてしまう。もっといい方法だって、あったのかも知れないのに。
『結愛のこと愛してたよ、世界中の誰よりも』
”例え伝わらなくても”という言葉を飲み込んで。
自分がこの先、前に進めなかったとしても、彼女には幸せになって欲しいと願う。
恋愛はもうしたくないと思った。する必要もないと。最愛の人への想いを音楽へ溶かしていく。きっと、この曲が流れたら何度だって思い出してしまうだろうけど。
それは、自分の過ちの記憶。
『俺のことは忘れて、ちゃんと自分に合う人と幸せな恋愛をして欲しい。それが、俺の願いだよ』
過去には戻れないから。どんなにやり直せたら良かっただろうと思った。五年も後悔してきたけれど。頑張ってきたつもりだったけれど。いつか、この選択が正しかったと思える日が来る。今は信じるしかない。
「お前さ、いつまでそうしてるんだよ」
平田の言葉に、優人はカップに口をつけたままチラリと彼に視線を移す。
「いつまでとは?」
「どうせまた、元カノちゃんのこと考えてたんだろ」
「ん、まあ」
───あと何回、同じ季節を繰り返したら、考えずに済むのだろうか。
再びため息をついて優人がカップを傍らに置くと、平田が優人の胸ポケットに手を伸ばす。
優人は彼の指先をぼんやりと眺めていた。するりと抜かれる自分のスマホ。見られて困るものなど何もない。
「元カノちゃんの連絡先消したんだな」
「ああ」
拒否に入れている。苦渋の選択。
「これで良かったのか?」
と、平田。
「俺に聞くなよ」
優人は気のない返事をすると、窓の外に視線を向けたのだった。
**
このまま永遠に歩きだせなかったとしても。
俺は君の幸せだけ、祈ってる。
君が世界で一番幸せで有りますように。
───『世界で一番愛しい君へ』
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