8 『彼女の本音』

「当て付けのように毎度毎度、新しい恋人の話を聞かされて、俺が何も思わないとでも思った?」

 素直に非を認めることのない相手だ。

 自分の気持ちにさえ素直になることもない。何を言ったところで、噛み合わない相手。

  それでも、彼女の一番になりたかった。嘘でも良いから一番だと言って欲しいと願うのは、恋人として間違っていることだったのか。


「愛なんて、分からないっていったくせに」

 どんな想いで他の奴に対し”愛してる”と言うのを聞いていたのか。俺には好きとさえ、言わなかったくせに。


 理性は美徳だと思っていた。

 冷静な自分が好きだった。

 嫉妬なんてするべきじゃないと。


「俺のこと、ほんとに好きだった?」

 バカげている。

 好きでもない奴と付き合うのはシツコクて断れないケースか、男をアクセサリー扱いするケースだと分かっているのに。好きでもない男の為に時間を使うことはないし、例え過去の彼氏の話でもしないという事を。


 理解して自分に言い聞かせて。

 何とか耐えていたはずなのに。

 堰を切ったように想いがあふれ出す。

 いつまでも、囚われているのは自分だけ。

 なんて惨めなんだろう?


──俺は、結愛にとって道具だったんだろうか?


 バカな想いが自分を支配し始める。

 平田が聞いていることも忘れて。心が過去に蝕まれていく。こんなの自分らしくない、そう思うのに。真っ黒になっていく心。救われたいから、彼女の傍に居たはずなのに。


「何言ってんの?」

 不意に彼女が口を開く。

 優人は、少し首を傾けた。”なんだよ?”と言うように。

「そんなの、恋人が一番に決まってるでしょ⁈ 大好きだったよ」

「え?」

「優人が、大好きだった」

 そこで、感極まったように泣き出す彼女。

「でも、優人モテるし」


──モテたか? 俺。

  普通に会話していただけだが。


「すぐどっか行っちゃうし、不安だった」

 別れて五年、今さら本音を聞くことになるとは思わなかった。

 自分は一途なつもりでいたなのに、不安にさせてたなんて。喧嘩ばかりで凹むこともあったが、穏やかで優しい時間を過ごしたかったのが、自分の本音。

 しかし喧嘩くらいしたいといったのは彼女。

 なんでも願いを叶えたら、ずっと変わらず傍に居られると思っていた。


──どこで間違えてしまったのだろうか。


「そっか、俺ちゃんと好かれてたんだ」

 呟くように溢す、確かめるように。自分の中で何かが解けていくような気がしていた。

 今度こそ、前に進めるだろうか?

「当たり前でしょ」

と、彼女。

「でも、もうやり直せないんだよな?」


 どんなに辛くても、受け止めなければならないと思った。

 現実を。

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