2 『未来が閉ざされても』
「なあ、逢いたいって言ってるぞ」
スマホを見つめていた平田が、無言の優人に告げる。
「なに、今?」
先日逢ったばかりだ。
その話ではないかと思い、優人は視線を床に落としたまま平田に問いかける。
「そのようだ。今来た」
「は? 貸せよ」
優人は奪うようにスマホを取り上げると、画面に視線を走らせた。
「なあ、もう
平田の制止を振り切り、通話ボタンを押すと優人はイライラしながら歩き出す。ポケットに片手を突っ込んで。
平田がヤレヤレというポーズを取るのが分かった。
数コールして相手が電話口に出る。
「どした?」
『……ッ』
どうやら泣いているようだ。また何か酷いことを言われたのだろうか。
彼女は気が強く、周りと衝突することが多かった。なまじ、モテる自覚があるため手に負えない。同性からはしょっちゅう、嫌がらせを受けていた。
「今どこ? そっち行くから」
上着を掴むと、部屋を出ようとして平田に腕を掴まれる。
横に首を振る平田を優人は睨みつけた。その目は、いつまで繰り返すんだと言っている。
──そんなこと、言われなくても分かってるよ。
彼女が一所懸命前に進もうとしているのに自分がこうやっていつまで傍にいたら、その妨げになることくらい。
しかし彼女をそうしてしまったのが、他でもない自分だから放って置けない。
「近くにいるらしい。連れてくる」
通話を切ると、極めて冷静に平田にそう告げる。
「なあ。別れて別々の道を歩き始めて、友達関係だと言うなら俺だって止めないよ。でも、優人は違うだろ」
そうは言われても、彼女が立っていられるのは自分がいるからだと思っている優人にはどうしようもない。
頭痛がする。
──ならば、どうすればいい?
俺に恋人でも作れと言うのか?
うまく行かなかったこと、知っているはずなのに。
『優人はさ。元カノのほうが大事なんだよね?』
『そういうわけじゃない』
『一緒に居ると辛いんだ。好きだけど、別れよ。ううん、好きだから別れたい』
求められるままに受け入れた、別れ。
後から知る、元カノが彼女に酷いことを言ったという事。
自分が誰かと付き合うことで、その誰かを間接的に傷つけてしまうのなら、一人で良いと思った。
「ずっと、元カノに振り回されて行くのか? これからもずっと」
平田の言葉に、優人は何も返すことが出来ない。
──これが良いことだなんて思ったことは一度もないよ。
自分の中にあるのは、義務なのだろうか。
それとも、罪悪感なのか。
その区別さえつかず、ただ求められるままに与え続ける。これは愛じゃないのだろうか。
否定されたら、自分は何処へ進めばいいのだろう。
優人は力なく平田の手を振り払うと、玄関へ向かう。今度は止められることはなかった。
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