第2話 再就職
叔父の死が亡くなり僕の心にはぽっかり穴が開いた。しばらく虚ろな日が続いた。ある日の朝、母が「いつまでも悲しんでもいられない、翔平のためにもしっかり生きよう」と言った。この言葉で僕は吹っ切れた。そして誰かを助けたいと思うようになった。叔父にしてやれなかったことを誰かにしてあげたいと思うようになった。
4月23日
嵐山にある介護事業所『あざみ園』に再就職することができた。理事長の
「日本の介護観は、従来「両親は息子(特に長男)や親族が面倒をみるもの」という価値観があった。だが、少子高齢化や核家族化の進行、医療の進歩に伴い寿命が延びたことにより、介護が「看取り三月」ではなくなったことなどに伴い、介護を行う家族(配偶者や子)の側もまた高齢者であるという「老老介護」の問題も浮かび上がっており、家族にとってはより重い負担となっている(著名な例では、1999年(平成11年)に当時の高槻市の市長・江村利雄が、妻の介護と公職の両立が出来ない事を理由に市長を辞任して議論となった)。老老介護の苦労や負担に耐え切れず、介護する子が親を殺害するなどの犯罪にも繋がっている。
現在では要介護者を抱えた家庭の苦労や、介護される側の気苦労などが広く知られるようになり、社会全体で面倒を見てもよいという価値観が生まれつつある。君は希望の星だ。頑張ってくれたまえ」
僕は漸く誰かに認められた気分になり泣きそうになった。転職活動は本当にしんどかった。先が見えず、イライラしていた。
家に帰ってニュースを見た。
●1994年4月23日に東京都三鷹市の井の頭恩賜公園で発生した井の頭公園バラバラ殺人事件がこの日午前零時を以て公訴時効。
●大阪府警察、西淀川区女児虐待死事件で女児母親と同居男性、および男性知人の3人を、奈良市内の墓地に女児の遺体を遺棄した容疑で逮捕。
●SMAPの草彅剛が公然わいせつ罪で逮捕。
4月27日
●政府、メキシコを中心に発生した豚インフルエンザ事案を受けた緊急閣僚会議で、ウイルスの日本国内への侵入阻止、ワクチンの製造、在外邦人に対する情報提供支援などを柱とした緊急対処方針を決定。
●「経済危機対策」2009年度補正予算案を閣議決定、国会に提出した。総額13兆9256億円。過去最高の補正予算案。
『あざみ園』は高齢者介護だけでなく障害者介護にも力を入れている。僕が配属されたのは障害者介護の方で、『ダリア館』という施設名だ。ボスの
長宗我部は弟がダウン症だったそうだ。
ダウン症候群は、21番目の染色体が通常2本のところ3本になることが原因だ。多くは偶然に3本になるといわれている。また、出産する母親の年齢が高いとダウン症候群の子どもが生まれる確率が上がるといわれている。
ダウン症候群では日常生活を送りやすくするために、主治医をはじめ多くの経験を持つ専門の医師や特別な支援団体に相談し、本人の状況に合わせたサポート体制を広げることが大切だ。近年は医療の発達やサポート体制が進んでいることから、多くの人が普通に学校・社会生活を送っている。
今日は木屋町通にある大衆食堂で歓迎会が開かれた。木屋町通は京都市の南北の通りの一つである。北は二条通から南は七条通まで、全長約2.8キロメートルの道路である。先斗町の西にあり、高瀬川の東側に沿って中京区・下京区を貫通する。 略称木屋町は、東西の通り名と合わせて頻用され、また通り沿い・高瀬川沿いの二条・五条間の地域を「木屋町」と通称する。
「九条君は何で介護士になろうと思ったの?」
バーボンを飲み干し長宗我部が言った。
「叔父をいろいろ介護してたんですが、介護の甲斐もなく亡くなってしまったんです。介護士さんとか直接見たわけじゃないけど、やりたいと思いました」
「そうなんだ」
長宗我部は『湘南爆走族』の影響で暴走族になったらしい。
僕は織田信長に会ってみたいと思っていた。大河ドラマじゃ、渡哲也や緒形直人など様々な人を演じてるがどんな顔をしているのだろう?
そういや、長宗我部は長宗我部元親の末裔らしい。長宗我部 元親は、日本の武将、戦国大名。長宗我部氏第21代当主。幼名は弥三郎。土佐国岡豊城主国親の長男。 国司家一条氏を追い出し、土佐を統一した。その後各地の土豪を倒して四国を統一した。しかし豊臣秀吉の四国征伐に降伏し、土佐一国の領有を許された。秀吉の九州征伐、小田原征伐、文禄・慶長の役に従軍した。
「そういや知ってるか?この辺に怪物が現れるの?」と、長宗我部。
「不審者ですか?そーいや、去年の秋葉原の通り魔は怖かったですよね?」
僕は比喩的な表現で言っているのかと思った。
「イヤ、マジでいるらしいんだ。近くにある雑木林にゾンビがいるらしい」
「ちょっと〜酔ってるんですか?」
僕は小さい頃はサンタクロースがいると思っていたが、さすがに今はない。
僕は車で来ていたので酒は飲まず、ジュースをガブ飲みした。料理はカルボナーラ、メバルの塩焼き、ピザなどだ。宴が終わったのは11時くらいだ。
「入ったからには道を極めてね?」と、蘇我から言われた。
自閉症の
言語の発達の遅れ、対人面での感情的な交流の困難さ、あるいは全くの無関心、反復的な行動を繰り返す、行動様式や興味の対象が極端に狭い、常同的に奇声を発する、手をひらひら動かす、極度の自己中心的思考になる、物を列や幾何学的に整然と配置する、被害妄想を持つ、ストレスによる他害行為などの様々な特徴がある。
なお、自閉症の症状は人によってかなり異なり、以上の特徴が当てはまらない場合もある。
長期に渡り社会的相互作用に障害を抱えている。社会的コミュニケーションの不可能状態が続いている。
レクはジャズダンス(『ガッツだぜ』、『明日があるさ』、『チェリー』)、木工、機織り、ボールペン作りなどがある。朝の送迎では検温を行い、それをノートに記入していく。
5月8日 - 大阪地方検察庁特別捜査部、「障害者団体向け郵便割引制度」を悪用しダイレクトメール郵便を発送、郵便料金負担を違法に軽減した郵便法違反容疑で、新たに健康食品販売会社社長らを逮捕。
今日は母が旅行でいないので、6時頃起きローソンで親子丼を買い、店の駐車場で朝飯にした。窓を開けると5月の風が入り込む。あくびをして目を擦る。レンタルショップで借りた尾崎豊のCDを聞きながらドライブ。『Birth』ってアルバム、『LOVE WAY』『黄昏ゆく街で』『永遠の胸』どれもいい曲だ。いつもより20分早く職場に着いた。エンジンを切ると鳥の囀りが聞こえる。缶コーヒーを飲みリラックス。
事務所に入ると長宗我部が書類の整理をしてる。挨拶をしてリュックをロッカーにしまい洗面所で歯を磨く。
冬子さんが運転する。僕は後部席、1番目は
辺見が送迎車に乗り込む。
「それじゃあシートベルトをしてください」
僕は辺見に促した。
車が発車する。
「じゃあ熱を計りましょう」
2010年4月
僕は高齢者部門に異動になった。『あざみ園』はログハウスみたいな造りになっていた。
そこに鮫島さんがいたからビックリした。彼は僕のことは忘れていた。それどころか、「おまえは俺の息子だ」だとかワケの分からないことを言っていた。
教育係は
『ダリア』に戻りてーな、と思うようになった。
『あざみ園』はデイサービス部門と宿泊部門に分かれていた。
松永が「体を密着させず膝を落とせば、前屈みの動きを引き出せるからな?足を引いて前屈みになってもらえば、お年寄りのお尻が上がる」と教えてくれた。そのとおりにやったら楽に出来た。
鮫島さんの寝返りの介助をしていたら腰を痛めた。
松永が「何をやってもダメだな?力まかせに横向きにしようとしなかったか?」と睨みつけてきた。
「はい……」
「それだから腰を痛めるんだ。鮫島さんの両膝を揃えて、かかとをお尻に引き寄せる。鮫島さん、両手をいっぱいに上げて指を組んでくれるかな?」
鮫島は松永の言うとおりに従った。
松永は鮫島の頭と肩を一緒に上げた。
「介護する側のおまえがそんなんでどうする?」
「すみません」
ナースコールが鳴った。
6月4日 - 鳩山由紀夫内閣が総辞職。菅直人が民主党代表選挙で樽床伸二を退けて第8代民主党代表に選出され、同日の衆議院及び参議院での首班指名選挙に於いて第94代内閣総理大臣に選出される。
僕は野口遥と付き合うようになっていた。
彼女は歴史が相当好きらしく、『信長公記』を持ってるらしい。あと、太宰治が好きらしくて、『ヴィヨンの妻』ってのがいいらしい。スーパーに寄り、ビール缶やワンカップ大関、牛タン、サラミなど次々にカゴに放り込む。雨粒がパラパラ、民家の灯りも2人で見ると何故かキレイに見える。アパートに入ると生ゴミの袋が玄関先にあり、悪臭を放っていた。遥がファブリーズでシュッシュした。
遥とソファでキスをした。互いに生まれたままの姿になった。彼女の腕には痛々しいキズがあった。
「元カレに殴られて、心を病んで自分でカミソリで切った」
アームカットか。
「ヒドい奴だな?」
朝まで激しく交わった。
次ぐ日は晴れていて朝日が眩しかった。
寝てる遥をそのままにしてアパートを出た。
墨染の地名は、平安時代、
この地は京街道、奈良街道、大津街道が交差し、宿場町として栄えた事もあり、1699年(元禄12年)、茶屋株(お茶屋の営業権)が墨染の南部(現在の関西電力墨染発電所の西側)で許可される。そこから、
花街としての墨染は明治以降も存続するが衰退し1910年(明治43年)、京阪電気鉄道が開通した翌1911年(明治44年)頃、消滅した。
墨染町と深草墨染町が存在するが、これは1868年(明治元年)以降の行政区画の変遷によって、1931年(昭和6年)この地域が京都市に編入され伏見区となる際には、墨染町が伏見市に、深草墨染町が紀伊郡深草町に、それぞれ属していたためである。また「墨染」を冠した施設はその周辺にもある。
駅前にやって来たときゾンビが現れた。そいつは腕を咥えていた。屍が転がっていた。血みどろになって腸がはみ出ていたが、間違いなく神田霧子だった。
ゾンビは僕の方を振り返りニタリと笑った。
このままじゃ殺される!動こうとしたが、体が凍りついていた。そのとき銃声が響いた。
駅の階段のところに父が立っていて、右手にリボルバー拳銃が握られていた。そのとき、ネックレスにしていた黒い勾玉が赤銅色に輝き出した。
僕は突然意識を失った。
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