第3話 再会

 思わぬ展開から遅れて店に着いた。店は最上の名前で予約されていたので、最上が先陣を切って店に入った。予約を告げると、僕達は個室に案内された。


席に着いて携帯の電波状況を確認したが、残念ながらアンテナは一本も立っていなかった。


「まあ、日高には店の電話番号と地図を送っておいたので大丈夫だろ」

これに対して携帯を持たない片桐が切り返した。IT関連の人間で唯一携帯を持たない。


「所詮携帯は本当に必要なときには役に立たない。電源が切れたりして」


この訳の分からない講釈に最上が切り返した。


「日常の便利さを得られるだけでも持つ価値はある。片桐だって飛行機には乗るだろう。それと同じ。それに会社の代表なのによく携帯を持たずに仕事が回るよな。まあ、お前には24時間美人秘書が付いているか」

最上は、ニヤッとした。


片桐は、僕らが何も分かっていないかのように持論を唱えた。


「飛行機など俺が文明の利器を利用する場合、全てにおいて俺が支配的な時だけだ。携帯は、全く逆で、俺がそれを持つと支配される。くだらない連絡の山になる。たまに支配できたとしても。それに携帯の便利さは人間をダメにする。手紙ではなく目に見えないものを使って連絡を取ることは人間の本質に合わない」


「よくそんなことが言えるよな。自分は、IT関連の会社をやっていて」僕は片桐に絡みたくなった。


「だからこそやっていけるのだ。社長をやっていると如何に自分の時間を確保するかも重要なのだ。大体、携帯がないとやっていけないのは仕事のやり方が悪いからだ。でも、お前達には美人秘書がいないか」


片桐ワールドの終わりを最上が告げた。


「みんなビールで良いよな!」誰も反対することなくビールが注文された。


 重村が先程の占いについて言い出した。もう今回の集まりにはこの話題を話したくは無かった。気になっていたのは確かなのだが。


「あの日付ってなんだったのだろう?」

佐久間が重苦しく口を開いた。


「最初の日に何が起こるかではっきりするのでは?」

佐久間の意見はもっともであった。しかし、不思議に思うことがあった。


「占い師は俺らに関係があると言っていたと思うけどなぜ占い師は日付を六つ言ったのか?」


 僕は重村がメモを取っていたことを思い出した。最上も同じことを思い出したらしく最上が先に重村に言った。


「重村、お前メモを取っていただろう。ちょっと見せてくれないか?」


 重村は、横に置いていた鞄から先程のメモを取り出し、それを最上に手渡した。最上はそのメモを睨んだ。


 少し苛立ちを覚えた。この目でメモの日付を確かめたかったのだ。苛立つ僕を余所に、じっくりメモを眺めていた。何に納得したのか分からないが、ようやく最上は年代だけを読み上げた。


「どれどれ、今年が2007年だからこのメモからすると、来週と、2010年つまり3年後、そして、2012年の5年後に2回、2020年つまり13年後になるか、えっと最後が2052年、45年後、となっている。これに規則性は見当たらないな・・・」


年代だけ聞いても全く見当が付かなかった。我慢出来ずに最上からメモを取り上げた。


 自分の視点でそのメモをじっと眺めた。それぞれの日付にはやはり関連は見つけられない。結局、この日付の意味はさっぱり検討がつかなかった。


『お待たせしました。ビールをお持ちしました。』店員がビールを運んで来た。


入り口に座っていた最上が対応した。

「はいはい。どうも」

最上はジョッキを受け取りそれぞれに回し、みんなの注目は目下のところビールに移った。それにしても旨そうだった。僕はメモをビールで濡らさないように側においた。重村に返そうと思ったがまだ未練がある。


 いつものように最上が乾杯の言葉を述べた。特別な行事で無い限り、このメンバーで飲む時、乾杯の音頭はいつも最上の担当だった。


「日高は未だ来ていないけど、取り敢えず始めたいと思います。一年振りに集まった訳だがなぜかそんな気はしません。と言うのもいつも通り俺がこうやって乾杯の音頭を取っているからだ。とにかく、日高が来るまで喉を潤そう」


 僕らは生大を注文していたが最上は一気にそれを飲み干した。これもいつも見慣れている光景で唯一異なっていたことは、飲み干すスピードがいつもより遅かったことだった。


 それは、日高がいない為で、2人は毎回乾杯と同時に飲み干すのだが、今日は競争相手不在で、いつもよりスピードが遅かった。


 大学時代は、2人で、何勝何敗だと言って、勝ち星で揉めていた事を思いだす。確か、日高の方にがあったと記憶があるが、定かではない。


 みんなが一旦ジョッキを置いたところで僕は考えていたことを述べた。結局、話題はあの占いになってしまった。


「あの日付の意味するところは、さっぱり分からんが、あの占い師は六つの日付を言った。俺らは5人しかいなかったにも関わらず。もし、あの日付が俺らに関係しているものだとすると、日高の分が入っているとは考えられないか?」


片桐が後を引き継いだ

「実は俺もそう思っていた。となると問題は、なぜ占い師は最初から6人いると思っていたのか」


「ああ、その通り。確かに俺たちが現れた時に6人と言い当てることは片桐が言ったように可能かも知れない。しかし、とっさに六つ目の日付を思いつきそれを3回繰り返すのは難しいと思う。だから事前に六つ用意していたと考えるのが自然だろう」


僕の意見に重村が反論した。

「だけど、最初は5人で占おうと思っていて、今日は6人で飲むと分かったため急遽変更したのではないか。日付の一くらい自分に関係のある日を選べば簡単に覚えられる。そんなに深い意味があるとは思えないけど・・・」


 僕らはビールを飲みながらしばらく考えたが、アルコール効果で考え過ぎなのかとも思えてきた。しかし、佐久間はそう思ってはいないようだ。


「やはり、6人分の日付を言ったことは何か意味があると思う。日高がいなかったにも関わらず六つの日付を言ったのは日高にもそれを伝えて欲しかったからだと思う」


 乾杯の盛り上がりが思わぬ方向へ行きだしたので、僕は占い師の話を始めた事を後悔した。


そんなときである。突然障子戸が開いた。

「すまん。遅れてしまって」

最上が一言、発した。


「6人目の登場だ」


 僕らは、どっと笑った。日高は6人目の登場がそんなに可笑しいものなのか呆気にとられていた。


 そんな日高晃太郎ひだかこうたろうを誰も哀れには思わなかった。遅れて来た日高が悪いのだ。少しの間、日高を晒し者にする事を僕らは同意し、十分に時間が経ってから、日高に助け舟を出した。


「早く座れよ」


 僕らは、日高に本当の6人目の意味を説明した。日高は全く僕らの話を取り合わなかった。


「お前たちはいつからそんなに迷信深くなった。今回の集まったテーマは怪奇現象か」


 実際にあの場にいたものと、飲み屋で話を聞かされただけでは、日高の疑い深い性格を差し引いたとしても、こんなに受け取り方が違うものだと思った。


 しかし、折角今日は集まったのである。日高の言うことも最もであった。それから占いの話は二度と出なかった。



翌日、佐久間から電話があった。

「昨日は楽しかったな。みんな変わっていなかったし」

「ああ。そうだな」

昨日の余韻が心地良い。

「ところで、佐久間、お前だったよな、今回の集まりを発案したのは」

佐久間はそうだった様な、と曖昧に言った。そして、

「沢村、重村をどう思った?」

突然の質問だったので反射的に言った。

「どうって?」

少し間を置いて佐久間が呟くように言った。

「何か悩みを抱えているように思えたのだが・・・」


 そんな風に見えなかった。何故、佐久間が突然こんなことを言ったのか意図が分からなかった。


「重村に何かあったのか?」

「いや、何ってわけじゃないのだがなんとなく気になって」

「いつから気になっていたのだ。昨日集まったのは重村の事と関係あるのか?」


佐久間は少し時間を置いた。違和感が体積を僕の中で膨らんでいった。


「ああ、それもあるがそれが全てではない。みんなに会う必要があった」


 どうも話がかみ合わない。社会人になって、対ストレス体質がグンと増したが、このたぐいの許容体積は然程さほど増えていない。迷路に入った様に出口が遠い。


「しかし、重村に何かあったとしても昨日の集まりでそれを打ち明けることはしないだろう。気を使って」


「沢村も忙しいとは思うけど、たまに重村を誘ってやってくれ」

重村の事はともかく佐久間自身のことが気になる。


「佐久間、どうした。お前自身何か悩みでもあるのか?」僕は続けた。「大体昨日会ったばかりなのに電話してくるなんて」


しかし、佐久間から返ってくる答えは同じだった。ただ重村が気になったと言うことだけ。何だか昨日の占い師との問答を思い出す。

「分かったよ。今度それとなく様子を見てみる」

「頼んだぞ」

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