6 雛本一家の謎
「その事件について、詳しく話してくれないか?」
和宏が食い気味に情報を強請ると彼女は驚いた顔をし、
「良いけれど、私も概要くらいしか知らないわよ」
と姿勢を正す。
「その記事には名前はなかったから、夫婦の名前はわからないけれど。当時私は先輩と共に新聞社と担当刑事の元へ話を聞きに行ったのよ」
彼女の話しはとても興味深いものであった。
当時その記事を扱っていたのは、一社のみ。その一家の殺人事件から犯人が割れたならスクープとなるはずだったのに、犯人はあっけなく捕まる。
むしろその夫婦の事件の方が難解だったようだ。
近所の人の話しではその夫婦には三人の子供がいたというが、行方知れず。家族は大変仲睦まじく見えていたという。全てが燃えてしまった為、人相も分からずじまいで、捜索するも見つかることはなかったと。
「子供たちに関する記録が全て消されていたらしいのよ」
そんなことってある? と彼女は眉を寄せる。
それどころか、時間が経つにつれ近所の証言もあいまいになっていったという。”長年近所づきあいをしていたはずなのに”である。
──タイムトラベルを行うと、その時代から存在が消される。
だから俺たちはいないことになった。
彼女が事件を覚えているのは、間接的な関りしかないから。
「そういえば、近所の人の話しでは真ん中の子は養女じゃないか? って話もあったのよね。奥さんの方がお腹の大きくなる気配もなかったのに、ある日突然、赤ちゃんを連れて帰って来たらしいの」
そこまで分かっているにも関わらず、彼女は一家の名前を知らない。
恐らく、
「途中から警察も迷走していたわねえ。元は要人の殺害現場にいて口封じの為とされていたけれど、犯人が捕まりその人とは無関係と分かったようだし」
「それでどうなったんだ?」
ソファーの肘置きに腰掛けティーカップを口元へ持っていきながら、和宏は問う。
以上のことから子供たちに嫌疑がかけられたもののその証拠はなく、そもそも子供たちがいたという記録がどこにもなかった為、放火魔の仕業として処理されたらしい。
今も犯人は捕まっておらず、迷宮入りした。
その後、何故か新聞の記事を書いた者が行方知れずとなり、今もあの事件を知るのは一緒に調べていた片織とその先輩だけになってしまったようだ。
「おかしな事件よね」
恐らく世の中には、未解決事件などいくらでもあるのだろう。
自分たちは解決した事件しか知らないだけなのだ。
──両親は何故、殺されたのだろう。
それよりも、カナが養女だったという話の方が衝撃だ。
あんなに母に似ているのに?
何かの間違いじゃないのか?
あるいは、親戚から引き取ったということも考えられる。和宏の母は本家の者だった。だからとても力が強く、その本家筋の誰かからカナを引き取ったというのであれば納得もいく。
『お兄ちゃん。もしわたしに何かあったら、優人をお願いね』
時間を超える前、二人で今後のことについて綿密に話をした。
あの時、カナが自分にそう言っていたことを思い出す。
同じ場所へ必ず飛べるわけではない。
その懸念の為だと思っていたが、もしかしたらカナはこうなることを知っていたのではないだろうか?
和宏はそんな風に思い始めていた。
何らかの理由があって行方を
けれども彼女は、
『優人をお願いね』
とは言ったものの、自分を忘れてとは言わなかった。
──ならば、俺は待ち続けるだけだ。
自分を信じて。
自分の判断が間違っていないことを信じて。
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