2 事件を追う者ども
5 事件を知る者
「世の中、物騒なんだから気を付けてあげなさいよ」
担当の彼女が身を捩り、テレビモニターの方へ視線を送りながらそう零す。
和宏はテレビをつけっぱなしにしていたなと思い、立ち上がったところで違和感を覚えた。
「ところで、この事件についてどう思う?」
彼女は二種の雑誌に携わっており、うち一つは事件などのスクープを取り扱う週刊誌。その上ミステリーが好きらしく、色んな新聞に目を通しているような人でもある。
ある時は二人、事件の推理で白熱したことも。
あの時は犯人の予想が的中し、互いに複雑な気持ちになったものだ。
「そうねえ。殺された理由が気になるわね」
彼女は完全に身体の向きを変え、正面からテレビモニターを見つめると自分の意見を口にした。
「だって、今のところ恨まれるような話は出てこないし、汚職していたとかいう噂も聞かないしねえ」
当たり前のことではあるが、議員の誰も彼もが汚職まみれだなどということはない。今回の事件で名前が知られるくらい地味な人でもあった。
「なあ、
担当の名は片織という。
「んー?」
彼女はニュースを見ながら何かブツブツと呟いていたが、和宏に呼ばれこちらを見上げた。
「十年くらい前にあった要人の事件について知ってるか?」
片織は現在三十代。十年前には今の会社で働いていたはず。そして今と趣向が変わらなければ、その事件についても知っているに違いない。
事件は動機が分かれば犯人に繋がりやすいものである。だからこそなんの繋がりも感じない無差別殺人などは論理的に、犯人の特定がし辛いのだろう。
「ああ。白昼堂々と起きたあの事件ね」
この国での安全神話などは、云千年前の昔に崩壊していた。だがそれでもまだ安全に外を歩けるのは、人々が武器を持たないからだ。危機はあったものの、一般市民が武器を持つことの許されない国。それがこの国である。
そうでなければ大切な家族を外に出すことなど、自分には不可能だ。
「今回の事件が、何か関係あると思うの?」
事件のことについて知っているからなのだろう。彼女は不思議そうな顔をする。
残念ながら和宏は、あの事件の行方を知らなかった。
「確か、犯人は逮捕されたのよ。割とすぐに特定されて」
「特定された?」
和宏たちが時を渡ったのは事件の翌日。
そう、両親が殺されたのは要人が白昼堂々殺害された、翌日なのだ。その為、事件の速報は見たもののその後どうなったのかを知らない。
こちらに来て数年、そのことを忘れていたほどに忙しかったというのもあるが。
「複数の防犯カメラに映っていたしね」
彼女の話を聞きながら和宏は顎に手をやった。
「十年前と言えば、和くんまだ中学生でしょう? テレビであれだけ騒がしくやっていたのに忘れちゃった? それともその頃は遊びに夢中だったのかな」
彼女はもちろん、和宏たちが時を越えてきたことなど知らない。話したとしても信じては貰えないだろう。
「そうだな」
和宏はそう答えるしかなかった。
それなのに何故、今更? と言われても困るが。
「まさか和くん。この事件があの時の事件に関係あるとでも?」
「やり方が酷似しているとは思う。模倣犯なら、恨みを抱いた者とも考えられるし……犯人が捕まってないなら、口封じかと思ったんだが」
それは思ったことを口に出しただけに過ぎない。
しかし彼女は、
「口封じ? そういえば翌々日あの事件の時の目撃者の夫婦が殺害されたって小さく記事になっていたわね。確証がなくてその後、
「え……?」
和宏が驚いたのは言うまでもない。
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