「賊」 001



「お疲れ様です、イチカさん」


 僕を放り投げてすぐ地中に避難していたレヴィが顔を出し、労いの言葉を掛けてくれる。


「レヴィもお疲れ。最高のアシストだったぜ」

「全く、自分の身を顧みない人ですね。私に掴まって移動するとか、正気の沙汰とは思えませんよ」

「まあ上手くいったんだし、結果オーライさ」


 と、呑気に会話をしてもいられない。

 僕は力の入らなかった身体に鞭打ち、その場でぐっと伸びをした。


「よし、とりあえずコアを集めよう」


 魔物は絶命した後、肉体の崩壊と共に体内のコアを吐き出す。

 拳くらいの大きさから小石サイズのものまで、大小入り混じったコアが辺りに散らばるのだ。

 また、そうした回収対象とは別に、目に見えない粒子状のコアも存在する。

 粒子は大気に溶け込み、僕たち人間の身体に吸収されて経験値となるのだ。


「お、またレベルが上がったみたいです。ニシシ」


 コアの回収をしているレヴィが、無邪気な笑みを浮かべる。


「そいつはよかった……おーい、ミア! そっちはどうだ?」


 離れた場所でコアを集めているミアに呼びかけると、満面の笑みでグーサインをした。


「さすがはAランクモンスターね! わざわざコアを砕かなくてもレベルが上がっていくわ!」


 どうやら、二人とも順調にレベルが上がっているようだ。

 僕は……まあ、言うに及ばずか。


「こっちは大体集めきったわよ~」

「おっけー。じゃあそろそろ移動しようか」


 依然として街は危ない状況だ、気を引き締め直さないと。

 僕のスキルがドラゴン相手にも問題なく発動する以上、積極的に討伐に参加すべきである。

 もちろん、最大限安全に配慮した上で、だが。


「街の中心部は高レベルの冒険者たちが対応しているはずだから、私たちはこのまま郊外を周るのが良いと思うわ」


 ミアと合流し、今後の動きについて打ち合わせをする。


「中心部に加勢にいかなくて大丈夫ですかね?」

「んー……被害状況がわからないし、何とも言えない。軍も出動してるし、滅多なことは起こってないと信じたいけど」

「あんな強力な魔物が複数体で暴れていたら、中々やばそうですけどね。それこそ、既に壊滅に近い状態でもおかしくありません」


 レヴィの指摘ももっともだ。

 このまま郊外を守るか、中心に行くか……悩みどころである。

 ……いや、悩むと言うなら、そもそもあのドラゴンたちはどこから来たんだ?

 偶発的な自然現象なのか。

 それとも。

 何らかの。

 人間による。

 悪意――



「もしかしてお前らか? 俺のドラゴンを倒してくれちゃったりしちゃったりしたのは」



 半壊した家屋の屋上から、謎の声。

 一人の男が、僕らを見下ろしていた。


「まさか子どもとはなー。年齢なんて数字に何の意味もないことは自明の理だが……いやいや、にしてもガキ過ぎねぇ?」


 値踏みをするような粘っこい目つきで、男は僕たちをじろじろと見つめる。

 真っ黒なスーツに、長い銀髪。

 歳は二十代後半くらいだろうか。


「……まあいいや。とりあえずお前たち、そのコア返してくれない?」


 言って、男は左手でくいくいっと手招きのジェスチャーをする。

 恐らく、先程回収したドラゴンのコアのことを言っているのだろうが……それを返せなんて、まるで自分の所有物であるかのような言い方じゃないか。

 が、そんな言い回しよりも。

 彼の左手の甲に、注意が向く。

 毒々しく刻まれた――髑髏のタトゥー。


「『グール』……」


 僕の後ろで、ミアが呟いた。


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